日本酒の醸造もしっかり勉強していくことが大切と気づいたので、醸造学的観点から日本酒のことを解読しく企画。
まずは原材料である米についてから。
vol.1 - 精米歩合の意義
日本酒には精米歩合で呼び方が変わる不思議なルールがある。精米歩合70%以下のものは「本醸造」、60%以下のものは「吟醸」、50%以下のものは「大吟醸」というような感じだ。
どうしてこんなに精米歩合が大事なのか?
そもそも精米歩合の定義
国税庁によれば、"精米歩合とは、白米の玄米に対する重量の割合"のことを指すという。1kgの玄米を精米して600gの白米になったときに、精米歩合60%というし、200gになるまで削り倒したら精米歩合20%というわけです。歩合制の歩合だから、割合のことですね。
どうして削るのか?
国税庁によれば、"米の胚芽や表層部には、たんぱく質、脂肪、灰分、ビタミンなどが含まれており、これらの成分が多すぎると、清酒の味や香りを悪くしますので、清酒の原料として使うときは、精米によって表層部を削り、これらの成分を少なくした白米を使います。"
端的にいうと、「過度な栄養素はオフになる」という意見。本当でしょうか?ビールは精米歩合という言葉を借りれば、精米歩合100%の大麦麦芽をそのまま砕いて使用していますが、麦芽の表面を削ったほうがいいという話は聞いたことがありません。
米を削る真意はどこにあるのでしょうか?
米を削る意義 - エステル形成の阻害
日本酒はビールと異なり原材料が少なく、ホップのようなフレーバー満点の素材を使うことはできません。また、米自身もなにか特別な香りを強く持っている方ではないので、発酵による香りの生成が非常に重要になりそうです。
発酵により生成する匂いの代表格がエステル、そしてチオールです。
チオールは一旦おいておき、エステル形成が米を削ることとリンクしているようです。
精米歩合とエステル形成 - タンパク質
米の表層部にはタンパク質と脂質が豊富だと書かれています。実際に1970代の研究ではありますが、精米歩合を60%にすることでタンパク質20%以下、脂質5%以下になるようです。
タンパク質はいずれ麹菌によりアミノ酸に分解され、酵母にとっての重要な栄養素になります。栄養素として利用されなかったものは旨味成分として味わいに寄与する可能性も大きいです。
アミノ酸が過剰になった場合には、ビールの世界でもエステル形成酵素が阻害されることがわかっています。さらにはアルコール臭と言われるような高級アルコールも多く発生することがわかっており、発酵のコントロールが難しくなります。
そういった観点から豊富すぎるタンパク質を削る意義はこのあたりにありそうです。
精米歩合とエステル形成 - 脂質
タンパク質だけではなく脂質を削り取るのも重要なようです。ビールでは脂質は酸化臭と呼ばれるオフの原因となりますが常に酸素にさらされている日本酒ではそういうのも気にしそうですね。
ただ、エステル形成でいえば脂肪酸エステルであるカプロン酸エチルの生成と関係があるようです。
カプロン酸エチルはカプロン酸とエチルアルコール(つまりアルコール)が反応した成分であり、カプロン酸が豊富に存在すると結果的にお酒のなかによく溶け込みます。カプエチで親しい吟醸香の第一人者です。
このカプロン酸は脂肪酸。酵母の細胞膜内に脂質が豊富にあるとわざわざ酵母が作り出す必要がないと判断して、あまり生成しないようです。だから、最初の米を磨き油分をカットしておくと、脂肪酸作らないと!と酵母がたくさんカプロン酸を作るようになるのですね。
カプロン酸は低温発酵でも豊富に出るようですが、これは細胞膜の流動性を高めるために重要なカプロン酸は、低温になったときに細胞膜が固くなりすぎないように酵母が積極的に生成していくようです。
そんな感じ。おもしろいね、精米歩合も。