前略、ソムリエな君- ブドウの味わい

いよいよイタリアワイン、6週目を迎えました🇮🇹

先週の2本のネロ・ダヴォラの飲み比べてみて、「同じブドウ品種なのに、こんなに違うワインになるんだ!」という驚きを感じました。その違いを生み出す要因の1つになるのが「発酵」。今週はいよいよ最後の問いである、発酵前と発酵後で、ブドウの味わいはどのように変化するんだろう?に迫ります🔍

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【先週までの3つの疑問】

  1. 「ネロ・ダヴォラ」の特徴とされる"凝縮された甘みの果実味"は、どのような条件で生まれるのだろう?

  2. イタリア国内または、他の国で「ネロ・ダヴォラ」と似たようなブドウはあるのか?

  3. 発酵前と発酵後で、ブドウの味わいはどのように変化するんだろう?そもそも変化するの?

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※1と2については、おはようびわ湖vol.91・98で公開しているので気になる方はぜひcheckしてみてください!

気候や生育条件、栽培方法などによって個性が生まれるブドウたち。こだわり抜かれてつくられているブドウたちは発酵の過程を通じてワインに変わるのですが、①そもそもなんで発酵させたのかな?そして、②発酵させることで、ブドウの味わいは一般的にどう変わるとされるんだろう?、という疑問が浮かんだのです。

順番に見ていきます🔍

①そもそもなんで発酵させたのかな?

回答の仮説としては、
・消費者目線:食用として食べるよりも、おいしく感じる人が多く、消費量が多かったから
・生産者目線:とれる量が多くて、食用としてだとロスが多いから
ーーー
memo: そもそも発酵とは?
微生物や酵素の働きによって有機物が分解され、化学変化を起こすプロセスのこと
・人間にとって有益な物質を生成すること
ーーー

この問いに対して自分を納得させるには、ワインが生まれた歴史を辿る必要がありそうです。

ワインの歴史は紀元前8,000年まで遡ります。またミードと同じように、最初のワインは人間が作ろうとして作ったものではなく、野生のブドウが自然に発酵してワインになったようです。

古代ギリシャでは、毎晩のように「シュンポシオン」という酒宴を開き、水で割ったワインを飲みながら学問や芸術を語り合っていたそう。なんとも楽しそうな会。太古の昔からお酒を囲んで盛り上がるという文化があったのですね🥂

中世に入ると、キリスト教がワインの歴史に大きな影響を与えることになります。キリストが「ワインは自分の血だ!」と言ったことから、修道院がワイン造りの中心になっていったんです。その結果、宗教と政治が結びついていた時代に、高品質なワインを生むブドウ畑の所有が、権力者の重要なステータスとなっていたそう。私はキリスト教にも他の宗教にも明るくないので、本や映画の世界のように思ってしまいます。

日本はザビエルが来日したものの、まもなく鎖国。そのため、ワイン文化が本格的に広まったのは開国(19世紀)以降になり、日本のワインの歴史はまだ始まったばかり🍾

長くなりましたが、つまりワインは、「海外のキリスト教徒を中心に人々のOSに予めインストールされている」といえそうです。なので、「なんでブドウを発酵させてワインを作るんだ!」という議論すら生まれず、今日まで歴史を歩んできたのではないでしょうか🍇

またそもそもブドウの特徴として、

・果皮に野生酵母が自然に付着している
・発酵に向いている糖分は豊富で、酵母が活動しやすい
・果皮に含まれる物質(タンニン)が雑菌の繁殖を抑制

が挙げられることから、技術が今ほど進んでいない頃からもずっと文化の継承ができたという点もあげられそうです。

ちなみに回答の仮説として挙げていた「食用として食べるよりも、おいしく感じる人が多く消費量が多かったから」に関連して言及すると、ブドウは生食用ワイン用に分かれています。

理解を整理するために表を作ったので、参考まで!食用は見た目や食べやすさを重視、ワイン用は発酵に最適化しているようです。

②発酵させることで、ブドウの味わいは一般的にどう変わるとされるんやろう?

一般的としたのは、個別の事象を全て調べることが時間の制約上できないためです。(今年中にワイナリーに訪れて、実際の体験談を書きますね。)

さて今回の回答の仮説としては、
・糖分が発酵の過程で消費されるので、甘みが減る
・タンニンが抽出されることで、渋みが増す

これも詳しくみていきます。

狭義)発酵=「糖分がアルコールと二酸化炭素が変わる現象」

甘みは減るのか?

発端:発酵させると糖分が減る、は知ってたらからぶどうでもそうか?と思ったので、検証してみようと思った。


結論、減るで正しそうです。
理解を深めるために数字で表してみました。

1. 糖度20の1kg(L)のブドウジュースを発酵させる
2. 1kgの糖が全てアルコールに変わるとしたら、約480gのアルコールが生成される(理論上)
3. 今回は200g/Lなので、96.3g/Lのアルコールが生成される
4. 糖分からアルコールへの変換率は51%とされている
5. 消費された糖分は、96.3g/L ÷ 51% = 188.8g/L
6. 残糖量は、200g/L - 188.8g/L = 11.2g/L
7. 最終的な糖度は約1.1

発酵前のブドウジュースはコーラの2倍近い甘さ。それが発酵を経て、無糖の飲み物程度まで甘さが減っていくのです。

■渋みは増すのか?

発端:発酵させるとタンニンが出る、ということをマルベックの章で学んだので、それを実際に実証してみようと思った。



まず渋みの要因となる「フェノール類(タンニンやカテキンなど)」について見ていきます。山梨大学の横塚弘毅さんの研究によると、ブドウ中のフェノール類は以下のように分布しています:

【ブドウの中のフェノール類】
・赤ブドウ:5,631mg/kg
- 種子に63% - 果皮に33%

・白ブドウ:3,893mg/kg
- 種子に71% - 果皮に23%

そもそものフェノール類が少なく、また種子と果皮を取り除いて作る白ワイン。一般的に渋みが少ないとされる理由に納得感が得られます。一方、赤ワインは果皮や種子と一緒に発酵させるため、渋みが増す可能性が高い、と言えそうです。

ちなみに実際のワインでは、フェノール類の含有量を参考まで:
・赤ワイン:1,300-2,000mg/l (2,000を超えると渋すぎて飲みにくくなるそう)
・白ワイン:200-400mg/l

ワインになったら、もともとの含有量が減ってるように見えましたが、醸造中にはフェノール類がすべて抽出されるわけではなく、一部は果皮や種子に残ったり、沈殿物(オリ)として除去されます。そのことが結果的な含有量に差を生んでいるんです。(厳密には単位も違うので単純比較はできませんが)

また他にもpHが低い=酸度が高い場合、タンニンが溶け出す割合が高くなり、より多くのタンニンが液中に存在することになり、渋みを感じることもあるようです。

また熟成をかけることで、渋みは減っていくという説も。どんどんタンニンは加水分解され、分子量が小さくなっていく。低分子になると、唾液中のタンパク質との結合性が弱くなり、渋みを感じにくくなる。

結論、もともとのブドウと比べて渋みが増えるのか?についての答えには辿り着いてはないのですが、

・白ワインは、赤ワインと比べて渋みは少ない
・赤ワインの中でも、もともとのブドウの品種や醸造手法によって渋みの大小は変わる

ということが言えそうです。

■他の変化は?

・酸味:マロラクティック発酵によって、リンゴ酸が乳酸に変わることで酸味がまろやかになる
→マロラクティック発酵(MLF)は、主に赤ワインで行われる。乳酸菌の働きによってリンゴ酸を乳酸に変える発酵方法のこと。酸味がまろやかになるだけでなく、ワインに複雑味と風味を与える効果もあるそう。

・香り:エステルやアルデヒドと呼ばれる香りの成分が生まれます。先日覚えたサクエチの香り(マニキュアみたいな香り)も、エステル香の一部。ブドウの時には生まれない香りです🍇

・色み:赤ワインでは果皮から、アントシアニンという色素が抽出されて赤くなります。また白ワインは、果皮と種がなく身だけなので、無色透明な仕上がりに。

そして言わずもがな、「アルコールが発生する」という変化が起こります。


結論

「ブドウを発酵させてワインにする」ということは、人間の古い歴史においてずっと刻まれてきたもの。特にヨーロッパなどのキリスト教圏では、宗教儀式や日常生活の中に定着していました。たとえば、日本人にとって『白米には味噌汁を』という感覚に近いものかもしれません。

また発酵をさせることで、ブドウ時代にはなかった甘み、渋み、酸味、香り、色みが変わっていくことも理解できました。それぞれを変えるためには、そこには職人による細かい醸造の手法であったり、ブドウの量だったり、無限大の組み合わせがあるんだろうな、と想像できます。そりゃたくさん実験したくなるよな、と醸造家への憧れが強まった今回でした。

発酵させる前のブドウと、そのブドウがどんなワインになっていくのかを追いかけることもしてみたいとも思いました。醸造研修をさせてくれるワイナリーに修行に行くしかないような気がしてきましたね。


■今週のテイスティングレポート
THE FAVE GRENACHE 2021 | KAESLER(ケーズラー)

前回のコラムで、ご紹介したオーストラリアでの実験。ネオ・ダヴォラとグルナッシュは似ていると専門家の方がコメントしていたのをみて、自分でも試してみようと購入してみました。

バロッサ・ヴァレーという南オーストラリア州に位置する有名な産地。ここで育ったブドウのワインは全部おいしい!とエノテカの店員さんはおっしゃってたので期待が高まります。

生産者であるKAESLER(ケーズラー)は、ー家がシレジア(現在のポーランド南西部からチェコ北東部)から、オーストラリアに移住し、1893年に最初のブドウ樹を植樹したことから、始まったそう🌳レイド・ボスワードさんという方が1999年にワイナリーを買ったことで、ワインのレベルがぐぐぐっとあがったよう。

特に高い評価を受けているのは「シラーズ」を使用したワインだそうなので、オーストラリア編の際に飲むことにします。

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・外観:澄んでいて、透明感がある。明るめのルビー色で、さらっとして若々しい印象。先週飲んだ「ROCENO NERO D’AVOLA」よりはだいぶ薄くて、最初に飲んだ「PARVA RES NERO D’AVOLA」に近い。

・香り:開いていて、カシスや、ティーバッグをずっと入れていた後の紅茶のような香りを感じる。お菓子のミルキーみたいな感じや、バターを塗ったちょっと焦げたトーストのような香りもいました。

・味わい:軽くもなく、重くもないミディアムなボディ。驚いたのは酸味や渋みをほとんど感じなかったこと。まろやかでとっても飲みやすい。ちょっぴり甘みも残っている。シルクを撫でたような優しさ(これがシルキー?!)を感じ、豊かさや育ちの良さを感じる。メンタルがとっても安定した人物像を思い浮かべました。

・合わせてみたいお料理:生ハムや燻製ハムなど、ちょっとしょっぱめのお肉が合いそう。ブルーチーズとかも良さそう。

・価格:3,960円(税込)/750ml
中価格程度のワイン。普段使いには難しいけれど、友達と集まる時やプレゼントに素敵🍷

長い期間を経てイタリアワインの旅をしました。3回連続で赤ワインだったので、白ワインをもう一個やりたい気分。ウルグアイにも旅立ちたいけど迷っています。また来週もお楽しみに!

 

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