はじめてのミード講座 vol.5 クラフトミードの作り方

こんにちは!ANTELOPEのやざわです!

今回はクラフトミードの作り方について解説していきます!「蜂蜜を発酵させたお酒」に詰まったいろんな世界を紹介していきます。1本1本のクラフトミードにどんな思想が詰まっているのかをさらけ出そうと思っていますので楽しんで読んでもらえたら嬉しいです!かなり深いところまで掘り下げていきますが、気になるところから少しずつ読んでいってもらうのが良いかなと思っています!

 

クラフトミードの作り方の流れ

クラフトミードの作り方について、5つの章にわけて説明します。

  1. レシピを書く

  2. マストを作る

  3. 菌(酵母、細菌、カビ)を利用する

  4. SNA

  5. 熟成させる

ここから長文になりますが、是非最後までお付き合いいただけると嬉しいです!

 

1. レシピを書く

 

レシピを書く

 

クラフトミードに限らず、お酒を作る上で超重要になってくるのがレシピです。どんなミードになるのかの骨格でとても大切な部分です。実際に僕が使っているレシピシートはこんな感じです。

 

レシピシート

レシピの一部ではありますが、いろんな数字を記入するところがあります。これは出来上がったクラフトミードがどんな状態になれば理想なのかを予め決めておいて、それに基づき製造を進めていくために書きます。レシピ作りにおいて重要な部分も説明していきますね!

 

  • 原材料の組み合わせと、量と、タイミング

  • アルコール度数と最終的な甘み

  • 水質

  • 菌(酵母、細菌、カビ)の選択

  • 発酵温度

 

それぞれ見ていきます!

 

原材料の組み合わせと、量と、タイミング

クラフトミードは蜂蜜以外にも色んな副原材料を使います。例えばリンゴやブドウのような果実、シナモンやバニラのようなスパイス、他にもハーブや樹のチップなどです。体に害のないものはすべて使えると思ってもらってokです!
そんな自由さがクラフトミードの最大の魅力でもあります!

それらを使ってどんな仕上がりにしたいのかを考えるためには、組み合わせと量と使用するタイミングが重要です。組み合わせに関しては実際に実験をして決めることが多いですが、量とタイミングに関してポイントがあるので詳しく説明してみようと思います!

 

量について
原材料はたくさん使えば主張が強くなるだけでは?と思われる方も多いでしょうか。基本はそのとおりです。ただし、糖分がある原材料を使ったときはその糖分量を計算する必要があります。アルコール発酵は、糖分をアルコールに変える動きですので、蜂蜜以外からの糖分があればそれらもアルコールに変化します。アルコール度数は味わいに関与する非常に大きな部分で、最初にどれくらいの糖分量があるのかを設定するのが大事です。

 

秤

 

例を出すと、アルコール度数10%のクラフトミードを作るために蜂蜜を100kg使用するというレシピに、ブドウを50kg入れたとします。そうすると、ブドウからも糖分が出るので実際にはアルコール度数が12%になってしまいました、なんてことがありえます。ですので、フルーツなどの糖分を含んだ原材料を使用するときは、狙っているアルコール度数と照らし合わせて糖分量の調整が必要になります。

そして例外的に気をつけなければいけないのが、酸っぱい果物です。例えばレモンやライムを大量に使ったクラフトミードを作りたい!となったときに、菌を入れる前の液体がpH3.0以下になってしまうことがあります。そのような強い酸性の状況下では発酵することのできる菌の種類が非常に限られてしまいます。仮に発酵したとしてもかなりのストレスが菌にかかっているので予想のつかない香りがでることもありえます。酸っぱいミードを作るときには色々と神経を使うのですが、そのぶん上手く行ったときの喜びは一入です。

糖分量を考慮した後は、どれくらいの主張を出したいのかです。フルーツの場合は使うフルーツによってその量はもちろん異なりますが、ミード1Lに対して200gのフルーツを使用するとかなりの特徴が出るとされています。スパイスの場合には経験を積むうちはとにかく少ない量から始めることにしています。迷ったら0.1g/Lの割合で使ってみて、少なかったら足せばよい、そんな感じで正解を探していく作業になります。

 

タイミングについて
原材料の量を決めたら、今度は使うタイミングを考えます。ここで考えるべきなポイントは、発酵前なのか発酵後なのかです。

発酵前の場合
発酵前に使用する場合の最大のメリットは、「酵母による香りの変化を受けられること」です。他にも発酵後の糖度変化がないことや、熱処理の手間を省ける、など色んなメリットはありますが、酵母による香りの変化が発酵の面白さであり、複雑さを生む重要なところです。酵母による香り成分の変化はバイオトランスフォーメーションと呼ばれ、ビールではホップの香り成分を変化させる重要なプロセスとして知られています。もちろんこれはホップだけじゃなく、フルーツやスパイスなどの香り成分でも同じです。発酵を通じてしか表現できない複雑な香りを求めるときには発酵前に投入するようにしています。

発酵後の場合
発酵後に使用する場合の最大のメリットは、「フレッシュな香りを引き出せる」という点です。先程の場合と異なり、発酵後は酵母による香り成分の変化が起きづらい状況です。ですので、副原材料のフレッシュな状態な匂いをそのままお酒に移すことが可能です。しかし、その分嫌な香り成分もそのまま残ることがあります。例えばフルーツですと硫黄系の化合物だったり、青臭い匂いだったりが有名です。これらはフルーツのままでは気づかないことがあっても、お酒に溶け込んだ途端に気になることがあります。ですので、それが気になるときには僕たちはフルーツを発酵後に漬け込むときにはお湯でアク抜きをしてから漬け込みます。ブランシールというフレンチ料理の技法をフレンチのプロに教えてもらい、参考にさせてもらいました!

どちらが優れているというわけでもないですし、どのように仕上げたいかによって使い分けたり、組み合わせたりするようにしています!

 

アルコール度数と最終的な甘み

原材料が決まったら、次はどれくらいのアルコール度数にしたいのかと、どれくらい甘みを残したいのかを決めます。これは何を決めることのなのかというと、発酵初期の糖分量と最終製品の糖分量を決めることになります。どうしてかというと、醸造酒のアルコール量はどれくらいの糖分が発酵によってアルコールになったのかを測ることで予測できるからです。

 

砂糖

 

例えば、糖度10%のジュース(1Lに100gの糖分が溶けているジュース)を発酵させてみます。この糖分がすべて発酵すると、お酒はアルコール度数約5%になります。糖分が一切ないお酒はとても辛口なので、少しの甘みを残そうと糖度を2%残して発酵を止めた場合は約4%のアルコール度数になります。

アルコール度数と最終糖度が決まったら、いよいよ蜂蜜の量が決まります。僕たちの例でいえば、アルコール度数を8%にして糖度を5%残すような設計のミードを作るときは300Lの仕込みに対して約100kgの蜂蜜を使用するレシピを書きます。ここまで来るとおおまかなミードの骨格ができあがります。

 

水質

お酒作りにおいて水はとても大切です。美味しい酒には美味しい水、というのは良く聞きますが、それとは少し違う方向性を持っています。どういうことかというと、使用する水の成分をレシピごとに調整するということです。

 

水

 

これはビールの作り方から学んだことですが、世界各国で伝統的に作られてきたビールのスタイルはその土地柄によって大きく異なります。風土が違うので当たり前かもしれませんが、分解して考えると面白いものです。IPA発祥の土地と言われるイングランドの水質は硫化水素が多かったり、「生ビール」と頼んで出てくるビールが属するピルスナーというスタイル発祥の土地は非常に柔らかい水が特徴のチェコのピルゼンだったり。ビールは麦と水を混ぜることから始まりますので、水が違えば出来上がるビールの性格も異なります。硫化水素が多い水を使ったビールは苦味がシャープになりますし、塩素が多ければ丸い印象を与えます。カルシウムやマグネシウムもビール作りにおいては超重要ですが、今回はクラフトミードがテーマなので割愛します。

こんな感じで僕たちも作りたいミードの味わいによって使用する水のイオン量を微調整しています。硬水よりか軟水よりかで言われると少し軟水より、のそんな水質が今のところ気に入っています!

 

菌(酵母、細菌、カビ)の選択

菌の選択は、お酒の骨格を決める非常に重要なものです。菌は酵母だけではなく、場合によっては乳酸菌や麹菌なども候補に上がります。例えば僕たちのサワーミードでは乳酸菌を先に発酵させてから、酵母を足すという方法を取っています。

 

菌

 

酵母にも実は色々と種類があって、それぞれ異なる特徴を持っています。酵母自身から出る香り成分の量や、活性な酵素の違い、アルコール耐性などが酵母によって異なります。ただしブラゴットという麦芽を豊富に使用したスタイルの場合は、これに加えて酵母がどれくらい糖分を消費できるのかというポイントも重要になります。では実際にどんな酵母がミード作りで使われているのか気になる方は僕のブログを覗いてみてください◎

 

発酵温度

レシピ作りも大詰めです。使用するものがすべて決まったらば、あとは酵母を入れた後のことを考えるだけです。一般的な発酵タンクは内側の温度をコントロールできる仕様になっていますので、基本的には管理した通りの温度になってくれます。ただ、コントロールできるといっても厳密にはタンク内を冷やすことしかできません。温度をあげたいときは酵母の発酵熱で勝手に温度があがるので放っておいても大丈夫だからです。ただ、外気温があまりにも冷たいときには何か別の方法でタンクの外側を温めてあげる必要がでてきます。僕たちANTELOPEもいよいよ最初の冬を迎えますので、どのような防寒対策をしなくちゃいけないのか今からそわそわしています。

 

温度計

 

発酵温度の決め方は色んな要素がありますが、最終的には「酵母の特徴をどれだけ出したいのか」につきます。温度が高いと酵母の特徴が出やすく、低温だと良い意味でクリーンな発酵になります。どちらがどうという訳ではなく、どういう仕上げにしたいかで選択していくことになります。僕たちのミードは少し低めの発酵で進めることが多いです。例えば「This is it」は、少しだけ低温で酵母を投入して自然と17℃にあげて17℃でキープしていますし、ベルギービールっぽく酵母の特徴を強く出したいようなときは同じく低温からスタートして19℃まで自然にあげて発酵させたりします。酵母の種類によっても、酵母の使い方によっても異なるクラフトミードになるので、僕たちも色んな酵母の使い方をしていこうと思っていますので是非楽しみにしていてください!

 

2. マストを作る

 

蜂蜜

 

レシピを書き終わった後はいよいよ仕込み工程です。クラフトミードではまず蜂蜜と水、あるいはジュースを混ぜたマスト(must)と呼ばれる甘い液体を作ります。ビールではウォート(wort)と呼びます。厳密には違うかもですが、日本酒で言う醪(もろみ)、ウィスキーで言うウォッシュ(wash)です。

お酒作りにおいて糖分を含む液体を作ることがとても重要です。どうして糖分を含んだ液体が必要なのかというと、次のステップで出てくる酵母が糖分をアルコールと二酸化炭素に変えてくれるからです(それをアルコール発酵と呼びます)。しかし、単なるアルコール発酵のために糖分が必要なだけではなく、酸味を加えるテクニックである乳酸発酵などでも糖分が必要になります。

 

砂糖

 

厳密にいうと、糖分といっても色んな糖分があります。きび砂糖とか、黒糖とかそういう話ではなく科学的な構成のはなしです。例えばブドウ糖と呼ばれるグルコース、果物に含まれていることの多いフルクトース、砂糖とよばれるスクロース、などなど。これらはすべてどんな酵母もアルコール発酵に変えることのできる糖分です。

しかし中には乳糖とよばれるラクトースや、グルコースが直線的に3つ並んだマルトトリオースなどの複雑な糖分を発酵に用いることができる酵母とできない酵母がいます。大切なことは甘ければ発酵するのというわけではなく、発酵に用いる菌が使用できる糖分を含んだ液体を作ることが大切になります。蜂蜜の場合、含まれる糖分は半分はブドウ糖と呼ばれるグルコース、半分は果物に含まれていることの多いフルクトース、そして少量のデキストリンです。蜂蜜の元となる花の蜜は砂糖でできていますが、その砂糖はグルコースとフルクトースが結合してできたものです。ミツバチが花の蜜を吸い、彼らの唾液に含まれる酵素でその砂糖はグルコースとフルクトースに分解されるので、結果として蜂蜜はこのような糖分構成になるのですね。

 

蜂蜜と水を混ぜる

レシピに従った量の蜂蜜と、水を混ぜていきます。僕たちの場合は水質調整を行っているので、あらかじめ水質調整を行った水を使用します。蜂蜜と水をよくかき混ぜてマストを作ります。このときにフルーツやスパイスを投入したりすることもあります。また、僕たちの保有する発泡酒免許の範囲でクラフトミードを作る場合には麦芽を使用する必要がありますので、この段階で麦芽も投入しています。発泡酒免許に収めるため以外の理由もあるのですが、それは後半で説明します!

 

加熱するかどうか

クラフトミード作りにおいて、マストを加熱して殺菌するかどうかが重要です。お酒作りにおいて狙った菌以外のものが入ることは基本的に好ましくなく、コンタミネーション(雑菌汚染)とも呼ばれる現象になります。そのため、酵母などの菌を投入する前の液体は加熱殺菌することもあります。もともと蜂蜜というのはほとんどが糖分で水分が少ないため、ほとんどの微生物が繁殖することができません。加熱処理のデメリットは揮発性の香りを飛ばしてしまうことです。もちろん嫌な匂いも飛ばせるので完全に悪いわけではないですが、ミードにおいては蜂蜜の高い抗菌作用と繊細な香りを活かすために加熱処理をしない生産者も多くいます。

 

加熱処理

 

僕たちが発泡酒免許の中で作るクラフトミードは蜂蜜以外にも麦芽を使用していて、その麦芽の殺菌(と麦芽の酵素を失活)するために一度マスト全体の加熱処理をおこなっています。このときに蜂蜜の香り成分がなるべく飛んでいかないように殺菌できる温度の中でなるべく低温・短時間で処理を行っています。こうすることで蜂蜜の繊細な香りを残しながらも、他の雑菌を処理することができて味わいのばらつきを少なくすることができます。

 

糖度を確認する

蜂蜜と水が混ぜってマストができたら、糖度を計測します。このときに糖度が高い、あるいは低かった場合は蜂蜜を足すか水を足すかして糖度を調整します。このときの調整に時間がかかると加熱処理の有無に関わらず品質劣化を招く恐れがあるのでなるべく短時間で調整できるように日々試行錯誤を繰り返しています。

 

発酵タンクへ移送する

狙い通りの糖度になったら、発酵タンクへマストを送ります。加熱処理をしているマストは熱交換器という機械を通して狙い通りの温度にしてあげます。また、発酵タンクへ移送するときにマストに酸素を溶かしてあげます。これは発酵初期に酵母の細胞壁を丈夫にしてあげて健全な発酵を促すためです。ただ、現在は酵母会社の進化もすばらしく最初から丈夫な酵母も多いようです。ですので、むしろ酸素過剰になってお酒の品質劣化につながるのではないか?という議論もなされるようになってきました。このあたりは経験に頼る部分も大きいので、常識にとらわれずに何事もチャレンジして作っていきます!

 

発酵タンク

 

 

3. 菌(酵母、細菌、カビ)を投入する

マストが冷えたら、菌を投入します。菌といっても、酵母やカビ、乳酸菌など色々あります。それぞれどんなものか説明します!ただ90%以上のレシピでこの段階で投入するのは酵母です。

 

酵母

酵母を入れるときに気をつけることは酵母の菌数です。酵母会社から買ったものを使用する場合は「1gあたりに何個の酵母がいるのか」を記載してくれています。どうしてここまでして酵母の量を気にするのかというと、菌数の量でお酒の仕上がりが異なるからです。
菌数が多いと酵母の特徴が出やすく、少ないとクリーンな特徴になります。発酵温度と同じような関係ですね。そもそも酵母の特徴とはなにかというと、酵母が出すエステルや硫黄化合物、アルコール化合物などの香り成分です。酵母由来の香りと菌数がどうして関係しているのかを簡単に説明します。酵母の香り成分はいわば酵母が活動した証です。人間でいうところの汗みたいなものです。たくさん動けば汗をたくさんかきますし、動く人の数が多ければ汗の総和は大きくなります。酵母の数が多いと、その分酵母1個あたりの「エサ」の数が少なくなります。そのため、酵母それぞれが活動する量は少なくなります。反面、酵母の数が少ないときには酵母それぞれが十分すぎる以上のエサがあるので、たくさん動いて、たくさん分裂して数を増やしていけます。同じ作業でも人数が少ないと汗ダラダラになっちゃう、そんな光景を思い浮かべていただけたらと思います(?)。

 

乳酸菌

乳酸菌はヨーグルトやキムチを作るときに使われる菌です。

 

乳酸菌

 

ワインだとマロラクティック、ビールだとサワーリングというテクニックでよく使われますね。大気に存在する乳酸菌を使うこともありますし、培養された乳酸菌を使うこともあります。僕たちも酸味のあるクラフトミードを作りたいときに乳酸菌を使うときがあります。ケトルサワーというクラフトビールで使用される方法でマストを乳酸発酵させた後に、酵母を投入してアルコール発酵させる方法です。ケトルサワーのやり方に関しては、これも非常に奥が深いので別の機会にまた紹介します!どうして酸っぱくなるのか、どんな特徴になるのか、などなど味わいに影響する部分が多く面白いので是非!

 

カビ

カビといえば、チーズのイメージが強いかもしれませんが、お酒作りでは麹菌の方がメジャーでしょうか。麹菌は日本酒の原材料となるお米のデンプンをグルコースに変えてくれる役割を持っていますね。クラフトミード作りにおいて麹が使われたことはまだないんじゃないかと思いますが、どうしてかというと、ハチミツはデンプンをほとんど持っていませんので麹を使用する必要がないからです。

 

それぞれの菌を投入したら、あとは狙った温度帯で菌が活動してくれるのを待つのみです。あとは経過観察をしっかりと行います。アルコール発酵が進んでいれば、マストの糖分が減ってきてアルコールに変わります。そのため、毎日コツコツと糖分量を計測してあげるのが大切です。

 

 

4. SNA

Staggered Nutrient Additionの頭文字を取った言葉です。要は何かというと、発酵中のマストに酵母の栄養剤を足してあげるテクニックのことです。

酵母が発酵を行ってくれるためには糖分だけがあれば良いわけではありません。化学式では必要なものは糖分のみですが、実際にはアミノ酸などの窒素源が酵母の生活サイクルで必要になります。僕たち人間も生活をするためにはエネルギー(カロリー)が必要で、それを呼吸から取ることができます。酸素を二酸化炭素に変える過程でエネルギーがでるのですが、じゃあ酸素だけ吸ってれば健全に生きていけるかというとそうではありません。色んな食事から栄養素を摂らないといけません。酵母も一緒です。糖分をアルコールと二酸化炭素に変えてエネルギーを取り出すことはできますが、糖分だけでは生きていけません。

 

 

多くのお酒では穀物や果物を使用して作られます。糖分を多く含むというだけでなく、穀物に含まれるタンパク質、果物に含まれるポリフェノールやアミノ酸が酵母の栄養素になるからです。しかし、蜂蜜は大部分が糖分ですので酵母が生きていくために必要な栄養素が足りません。そのため、発酵の途中で栄養素を足してあげないと発酵が上手に進まないことがあります。これを防ぐために栄養素を発酵タンクに投入するのがStaggered Nutrient Addition(SNA)という技術です。直訳すると「互い違いに栄養素を追加する」という感じです。何が互い違いになっているのかは以下のスケジュール例をみてもらえると理解してもらえるかもしれません。

 

SNA例

 

SNA例

発酵が始まったら、栄養素の投入を1日おきに行う例です。このように栄養素は発酵が始まったら感覚をあけて投入し続けます。一気にいれるのではなく、少しずつ感覚をあげて栄養素を足してあげるのです。もともと栄養素の投入を行うたびに、タンク内の二酸化炭素を抜くというステップがあったので、栄養素の添加と二酸化炭素のガス抜きを交互に行っていました。使用していたタンクに設計などにもよると思いますが、僕たちは高タンクから常に二酸化炭素を放出していますのでガス抜きというステップは踏んでいません。

このようにマストに栄養素を添加してあげるのはミード作りにおいて重要ですが、僕たちはこの栄養素を麦芽から抽出しています。麦芽を使用するのは発泡酒免許だからではなく、クラフトミード作りにおける酵母の栄養素を麦芽から取るという目的もあるのです。麦のエグ味を出さないように低温でお湯に漬け込んであげると麦自身の酵素でタンパク質がアミノ酸に分解されて、それが酵母の栄養素に変わっていくわけです。そんな形で僕たちは大麦麦芽をミード(This is it, The Last Supper)に使用しています!

もちろん麦芽以外にもアミノ酸を多く含む食品を足してあげることでSNAを行わくても健全な発酵を進めることも可能です。個人的にはパイナップルがすごかったですが、酵母が元気になりすぎてしまう恐れがあるので製品化まではもう一歩届いてません笑

 

 

5. 熟成させる

発酵が健全に進み、ミードが完成になりつつあります。酵母の食べられる糖分がなくなる、あるいは発酵を行えるような環境(アルコール度数や温度)じゃなくなったら酵母の発酵は終了します。発酵が終了したら、熟成というプロセスを挟むこともあります!(必須じゃありません)

 

甘みを残して発酵を止める難しさ

熟成の話に行く前に、僕たちが実際に遭遇したトラブルを紹介したいと思います。

 

 

ミードというのは非常に特殊なお酒でほとんどすべてが酵母の食べられる糖分で出来ているので、適切な量の栄養素と温度管理を行ってあげると糖分を一切残さない超ドライなお酒になります。しかし、甘みが残ったいわば甘口のミードを作るにはどうしたらよいでしょうか?
答えは発酵を途中で止めるしかありません。発酵を止める方法はたくさんあります。大手のお酒メーカーがやっているような酵母フィルターを使用して酵母そのものを除去する方法、亜硫酸などの薬品を使って酵母の活動を止める方法、酵母が活動できないほどのハイアルコールにすること、そして僕たちが現在行っている熱処理、などです。どの方法もメリットとデメリットがありますが、僕たちは2回もこの「発酵を途中で止めること」に失敗してしまい、狙い通りの味わいにならず全量廃棄するという経験をしました。どうして失敗してしまったのかは別の記事で書きたいと思いますが、現在は「70℃で20分火入れ」という方法をとって発酵を途中で止めることに成功しました!!

 

熟成のメリット

発酵が止まったら、熟成を取る方も多いかもしれません。この熟成というのは不思議な現象がたくさんありますが、1つ面白いものを紹介します。

「まろやかになる」「角が取れる」

熟成させたお酒の表現でこのようなものを耳にした方も多いかと思います。一概にこう!ということはできませんが、大きな要因として「高級アルコール」の変化があげられます。高級アルコールというのは発酵を通じて出た香り成分で、アルコール臭さの原因ともされています。飲んだときにグッとお酒っぽい感じがする、あのやつですね。これらの高級アルコールは時間とともにお酒に含まれている酸と反応してエステルと呼ばれる香り成分に変化します。このプロセスにはとても長い時間がかかります。

 

 

ゆっくりとした時間のなかで、少しずつアルコール臭さが別の匂いになり、結果としてまろやかになっているのだとされています。この高級アルコールは必ず発生してしまうのですが、量をコントロールすることは可能です。僕たちのミードは短期間の熟成を経て出荷するものも多いですが、これは僕たちなりに高級アルコールを多く出さないようなレシピ設計にしているからです。熟成期間を長く取らないでも大丈夫な設計ですが、もちろんお酒は嗜好品ですのでご自由におうちで熟成させてみていただいても構いません。少しずつ複雑で厚みのある味わいに変わってくるのが予想できますが、僕たちANTELOPEがまだ若いのではっきりこうなる!とは言えません。

是非みなさんと一緒にどんな結果になるのか楽しみたいと心から思っております。

 

まとめ

お疲れさまでした!
私もここまで長文の記事は久しぶりに書きましたので、指が痛いです笑

難しいところも多かったり、もっと深く踏み込んで知りたい方もいらっしゃると思います。醸造のことをもう少し詳しく私のブログにまとめていたりもしますので、是非そちらもご覧になっていただけると醸造の全体像を見やすくなるのではないかと思います。

1つのクラフトミードに、1つの作り方があります。みなさまがこれから色んなクラフトミードに出会われ、味わいに関する疑問が出てきたときにこの記事が少しでも疑問の解決に役立てば幸いです。次回はいよいよ僕たちのおすすめするクラフトミードをご紹介します!

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