大阪は交野。
ぶどう農家が集まるこの土地に、新しく根を下ろしたのが〈PAPA◯FARM〉の小笠原さん。

北海道生まれ、東京でアパレルの仕事を経て、結婚を機に大阪へ。
そのタイミングで「新しいことを始めたい」と思い、偶然見つけた農業研修の募集が、ぶどう農家への入口になりました。
「これがなかったら、農業はやってなかったと思います」
そう話す小笠原さんの選択は、計画的というより、流れに身を委ねた結果の一つ。
楽しいから続けている、わけではない
意外なことに、小笠原さんはこう言います。
「正直、ぶどう栽培って、めちゃくちゃ楽しいわけじゃないです」
一人で黙々と畑に向き合う日々。想像を超える感動が、毎回あるわけでもない。
ぶどうを食べても、「すごく美味しい!」「逆に全然美味しくない!」と振り切れるかというと、きちんとやってたらきちんとした結果とそう変わらないと言います。
それでも、やめたいと思ったことはない。
「しんどい時はあるけど今より“楽しくない未来”は想像できないんですよね」
よりおもしろいのは、「誰かとつくる」瞬間
小笠原さんがより面白さを感じるのは、ぶどうそのものよりも、誰かと一緒に何かをつくるときだと言います。
ぶどうが、ワインやミードになり、お酒になり、人の手を渡っていく中で、同じぶどうでもまったく違う表情が生まれる。
「偶然の産物みたいなものが、一番面白い」
それは、自分一人では決して生まれないもの。
失敗も、戻せない変化も、全部引き受ける
農業も、お酒づくりも、一度起きたことは巻き戻せない。
房を落としすぎたら戻せない。
発酵が進みすぎても、元には戻らない。
天候も、虫も、思い通りにはならない。
「でも、それを受け入れて“じゃあどうするか”を考えるのが、ものづくりの面白さ」
完璧を目指すのではなく、起きてしまった現実と一緒に前へ進む。
そこには、自然に対する諦めではなく、信頼に近い感覚があります。
地域へひらいていく、という愛
小笠原さんは、将来的に畑の近くでワインを仕込み、地域のぶどう農家それぞれのワインを少量ずつつくれるような構想も描いています。
高齢で畑を続けられなくなった人の受け皿になり、交野という土地全体が盛り上がる形をつくりたい。
それは大きな理想ではあるけれど、「誰かと一緒につくるのが好き」という小笠原さんの感覚の延長線にあります。
愛とは、予期せぬ未来を楽しく迎え入れてあげること
小笠原さんにとっての愛は、思い通りにいかないことが起きると分かっていて、それでも続けること。
誰かと関わることで生まれる予期せぬ変化を、面白がること。
ぶどうを育て、人とつながり、地域にひらいていく。