目に見えないはずの愛が、形を帯びる場所 - ヤギサケテン 八木さん

今回お話を伺ったのは、名古屋市名東区にある〈ヤギサケテン〉店主の八木正倫(まさのり)さん。


初めてお会いしたのは2023年の年末。大きなクリスマスツリーが飾られた店内で迎えてくれたのは、「名古屋のお父さん、お母さん」と呼びたくなってしまうほど、安心感に満ちた八木さんご夫妻でした。

創業から半世紀以上、かつてはサザエさんの「三河屋さん」のような町の御用聞きだったお店も、今では作り手の愛が感じられるお酒だけを並べるスタイルに。

その物語の裏には、料理人になる夢もあったと言います。たくさんの山と谷を越えてきた八木さんにとって、「愛」とは一体どんな形をしているのでしょうか。



作り手の愛を受け継ぎ、お客様にお裾分けする

仕事で愛を感じる瞬間、それは「作り手の愛が詰まった商品を、お客さんに届ける繋ぎ役になれた時」だと八木さんは語ります。

一本のお酒には、作り手の知識や修行、そして多くの人の時間が詰まっています。その貴重な結晶を、自分たちはただ分けていただいているだけ。「だから、お客様には『お裾分け』している感覚なんです」。

その謙虚な想いは、お客様にも確実に届いています。

先代から50年来のお客様。その方が紹介してくれた新しいご家族。県外からわざわざこの店を目指して来てくれる方。毎週欠かさず通い、来られない時は「今週は行けないよ」と事前に連絡をくれる方まで。

お店は、たくさんの温かい関係性で満ちています。


 

僕にとっての愛は、家族と、お客様からいただくもの

では、八木さん自身にとって「愛」とは何なのでしょうか。 尋ねると、二つの答えが返ってきました。

「それは『お客様からいただくもの』。そして、やっぱり『家族』かな」。

大学生の娘さんは、イベント出店を快く手伝ってくれる。そして、20代の頃から共に歩み、毎日一緒に店に立つ奥様。「一緒に仕事をするのは難しいのに、本当にありがたい」という言葉には、深い感謝が滲みます。

その愛は、お店の空間にも。もともと市販のスチール棚が並んでいた店内を、夜な夜な自らの手で解体し、温かみのある木の棚を作り上げたのも八木さん自身。棚の上には、お客様からいただいたというヤギの置物が、大切そうに飾られていました。

そんなヤギサケテンには、本来形のないはずの愛が見えるようなそんな錯覚に陥ります。ずっとお店にいたい感覚、なんか疲れたなっていう日に立ち寄りたくなる感覚。八木さんご夫婦の醸し出す愛に誘われて、皆さんもぜひ迷い込んでみてください。