日本酒の醸造は99%が「日本酒酵母」と呼ばれる酵母を使っているような気がする。
俗に言う「協会酵母」だ。
ワインは天然の酵母を使うときもあるし、培養された「ワイン酵母」を使うときもある。ビールは「ビール酵母」と呼ばれるものを使うときもあれば、ワイン酵母を使うときもあるし、日本酒酵母を使うときもある。
何が異なるのだろうか。
日本酒を日本酒たらしめるのは米の味、水の味、色んな要素があるが「日本酒酵母」が与える影響はどのあたりなのだろうか。
そもそも日本酒酵母とは
様々な研究背景があり、Saccharomyces. Sakeと呼ばれていたときもありますが現代では一般的な酵母 - S. cerevisiaeと一緒のように考えられています(異を唱える研究ももちろんあります)。
しかし、ワイン酵母とビール酵母と一緒なのかというと、長い歴史のなかで選抜と実験を繰り返されたことで「日本酒らしい」特徴を持つようになりました。
日本酒の酵母らしい特徴とは
- アルコール耐性が高い
- 低温でも発酵できる
- 低温でのエステル生成能力が高い
- 乳酸の生成量が多め
特に1.3.の要素は日本酒たらしめる要素といえる。
アルコール耐性はワイン酵母でも高いものは同等の能力があるが、吟醸香と呼ばれるようなカプロン酸エチル、酢酸イソアミルの生成量が多いのが注目する点だ。
低温でのカプロン酸エチルが出るならラガービールは?
何度も出てくるが、低温発酵だと日本酒酵母はカプロン酸エチルを出す。
これは低温だと酵母の細胞膜流動性を高めるためにカプロン酸を豊富に生成する(脂質を増やして滑らかな細胞膜にする感じ)からである。
過剰なカプロン酸はエタノールとエステル生成を促す酵素があり、結果的にカプロン酸エチルが増えるのである。
これが酵母全体に対する特徴であるならば、同じく低温発酵をするラガービールでどうして吟醸香がでないのか?
実はラガービール用の酵母はS.pastrianusという違う遺伝子の酵母だが、話はそんなに単純ではない。
ラガー酵母は日本酒酵母同様に低温でカプロン酸を作る。しかし、このカプロン酸をエステル生成に使うのではなく、β酸化という工程に使ってエネルギーを作ってしまうのである。
日本酒酵母が寒いと脂肪をつけて耐えるのに対して、ラガー酵母は寒いときにせっせと運動して体を温めるようなかんじだ。
結果的にラガー酵母は低温発酵であろうとカプロン酸が大量に作れず、カプロン酸エチルが出ないのである。
ちなみにワイン酵母はどうかというと、白ワインであれば一部低温でも発酵するがそれでも10℃ほど。日本酒やラガー酵母は8-10℃でもよく働きます。ワイン酵母がもっと低温耐性があればカプロン酸エチルも出てくる可能性もありますね。