Brewing Science - グリセリン

グリセリン - Glycerin



テーマは「グリセリン」

またまたとっつきにくい話かもしれませんが、お酒の味わいに大きく関わってくる話なので興味があればぜひ読んでいただきたいです!


グリセリンとは



グリセリン(別名:グリセロール)は、無色・無臭・粘性のある液体で、化学的には「三価アルコール」という種類の化合物です。


もともと動植物の脂肪や油脂から分解される際に生成されるもので、食品添加物として甘味料や保湿剤として利用されることもあります。


そして酵母が発酵する際のエタノール、二酸化炭素に次いで3番目に多い副産物でもあります。


粘性があり甘いというその特徴からお酒のボディとコクに良い影響を与えると言われております。


余談

グリセリンは酵母の発酵において二つの重要な役割を果たします。


1. 浸透圧の調整

酵母は浸透圧のストレス(高濃度の糖や塩分など)にさらされると、酵母細胞内の水分が急速に細胞外へ移動します。この浸透圧の差を埋めるためにグリセリンを蓄積して細胞膜の浸透圧バランスを調整し、生存を維持しています。


2. 酸化還元バランスの維持

酵母が発酵を行うと、グルコース(ブドウ糖)を分解してエネルギーを得る過程で、NADH という物質が作られます。通常、酸素がある環境では、ミトコンドリアがNADHを「酸化」してエネルギーを作るのですが、酸素がない環境では、この仕組みが使えないため、NADHの処理方法が必要になります。

そこで酵母は、グリセリンを合成することでNADHを消費し、NAD⁺(NADHの酸化型)を再生します。つまり、グリセリンの合成は、発酵によって余ったNADHを消費し、発酵を続けるために必要なNAD⁺を供給する役割を持つということです。


グリセリンがミードに与える影響

 

グリセリンが与える影響は

  • 甘みを感じさせる

  • 口当たりをなめらかにする

この二つが一番大きな要素となっています。


詳しくみていきましょう。


・甘みを感じさせる
グリセリンは砂糖のような糖分ではないのですが、砂糖の60%ほどの甘みを人間は感じるようになっています。それはグリセリンの分子構造が甘みを受容する細胞に結合しやすいからと言われています。よってグリセリンの多いワインでは糖分がないにもかかわらず甘いと感じることがあるのです。

・口当たりをなめらかにする
グリセリンはとろっとしていて粘度と密度が高いため、甘みも相まってアルコールの強さや渋みを和らげる効果があり、「なめらかさ」や「丸み」を感じさせる効果があります。

 

ある研究では、ノンアルコールビールに0.3%〜2.0%の範囲で加えるとボディ感が向上することが確認されています。また糖度の高いアイスワインなどではすでに十分なボディと口当たりがあるため、グリセリンの影響が感じにくいという研究結果もあります。

ミードにおいても、ドライなのかスウィートなのか、低アルコールなのかハイアルコールなのかでグリセリンの影響は大きく変わってくると言えそうです。


グリセリンを添加すべきなのか?

一般的なアルコール飲料に含まれるグリセリンの量は、ビールで1~3g/L、ワインとミードで4~9g/Lと言われている。

ミードにおいては7.8g/Lが最も良いという研究結果もあるなど、適切な量のグリセリンが存在することは好ましいことと言える。

反対に、過剰なグリセリンは口当たりが重すぎたり不自然に感じられる可能性もあり、また自然に発酵で生まれたものではないことを嫌がる人もいる。


グリセリンのメリット

  • 口当たりがなめらかになり、より飲みやすくなる

  • 甘みを感じさせ、ボディを向上させる

  • 渋みや苦味をやわらげる

グリセリンのデメリット

  • 多すぎると不自然な味わいになる

  • グリセリンの添加を嫌がる人もいる


以前セミドライのミードに2g/L,4g/L,6g/Lのグリセリンをそれぞれ添加する実験を個人的にしてみたところ、2g/Lの場合が一番美味しかった。


もともとのグリセリンの量は計測できていないが、4gと6gの場合ではかなり甘みを感じ、6gでは粘度も感じられた。結果的に甘みと酸味、口当たりのバランスから2gが最も良かったと感じた。


つまりグリセリンを使用する際は、アルコール度数や糖度、ph、香りや風味など総合的に判断して適切な量を添加する必要がある。


余談 エタノールとグリセリン

グリセリンは発酵の副産物なのですが、エタノールの生成と強い相関関係にあります。酵母が発酵する際にグルコースがリン酸と結合することで2つの化合物が生まれます。

・ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)

・グリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)です。

この2つは1:1の割合で作られるのですが、酵母はエタノールを作るためにGAPをたくさん必要とするため、ほとんどのDHAPはGAPに変換されます。その結果DHAPの一部だけがグリセロールに変換されます。つまりエタノールが多くなればなるほど基本的にはグリセリンの量も多くなるのです。



グリセリンを増やす方法

 

グリセリンを添加する以外にもそもそも発酵中に増やす方法もあります。


・酵母の選択


酵母はグリセリンの生産に最も大きな影響を与える要素であり、酵母の成長や環境要因によって変動します。

グリセリンの生産量は、使用する酵母の種類、糖度、原材料によって変わります。利用可能な窒素源、特にアミノ酸の種類によっても影響を受けます。窒素が不足した状態では、栄養素を追加することで、酵母株によって0.5〜1.5 g/Lのグリセリン増加があるとも言われています。


lalvinS6Uという酵母のグリセリン生成量が非常に高いそうです。

使ってみたいのですが日本では買えなそうでした。。。

・糖度と温度

マスト(発酵前の液体)の糖度が高いほどグリセリンの生成量は増える。これは細胞が浸透圧に耐えるためにグリセリンを多く生成するからである。また温度が高いとグリセリンが多くなることも確認されている。特に30~50°で20~120分熱にさらすことで約2倍グリセリンが増えたという研究結果もある。

ミードの最適な生産条件を研究した結果によれば、24°で発酵させるのが最もグリセリンの濃度が適度でバランスがとれたミードになるそうです。

また温度が高いと酢酸が多くなるなど弊害も考えられるのでやみくもに高温で発酵させるのがいいわけではないです。

他にも酵母自体の遺伝子を操作したりするなど素人には手も脚も出ないやり方もあるのであんまり深く考えこまずにいろいろ試してみるのが良さそうです。


***

グリセリンについて深ぼってみました。

正直、そのミードやワインに添加されているのかどうかは適量の範囲内では判別が難しいです。

ただ飲み物を美味しくするための技術としては活用する価値はあるのかなと思いました!

 

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