前略、ソムリエな君 - 凍ったブドウがなぜ極甘口に?カナダのアイスワインに迫る

おはようございます!1週間空きましたが、今日はようやくカナダのお話に。前回はカナダのお話に入る前に、カナダとの国境に程近いアメリカ・ニューヨーク州のワイナリー「フォージ・セラーズ」についてご紹介しました。(気になる方はぜひ読んでみてくださいね!〈前略、ソムリエな君 - ワインショップで起こった偶然の出会い〉)

国土の90%以上は人が住んでいない地域というカナダ。人口密度も低く、東京ドーム5個分の広さに1人しかいないほど。(東京は東京ドーム1個に300人ほどの密度、滋賀は1個に17人🌱)

人が住んでいる地域の10%でつくられているワイン。イメージではなんとなく日射量も少なそうだし、気温も低そうで降雨量も多そうなカナダ。いったいどんなワインがつくられているのでしょうか?

調べてみると、有名なのは「アイスワイン」。名前は聞いたことがありましたが、〈凍らせて飲むのかな?〉とか、〈アイスにかけるワイン?〉など実はよく知らなかった「アイスワイン」。今日はそんなアイスワインについて深掘ってみます🔍

アイスワインとは?

「樹の上で凍結したブドウを収穫し、凍ったまま圧搾して造られる極甘口のデザートワイン」を指します。なるほど、ブドウが凍っている(=Iced)ので、アイスワインということですね。

発祥がカナダだったのかというと、実は違ってドイツで生まれました。18世紀末に寒波が襲い、収穫前のブドウが凍りついたのですが「廃棄するのはもったいない」ということでワインをダメ元でつくったところ誕生したのです。いつもと違ったことが起こっても、それは何かのきっかけなはず◎そう思わせてくれるエピソードですね🌱

より安定的につくれるようにと、極寒のカナダに移住するワイン醸造家が1980年頃から増え始め、今ではカナダは世界のアイスワインの75%以上を占めるほどになったそう🇨🇦その他の国ではドイツ、オーストリアでつくったものだけが「アイスワイン」と名乗れます。

過去の学びからすると寒い地域のブドウは糖分量が少なくて酸が立つ、そんなイメージがあります。カナダでアイスワインになるブドウ品種はいったいどうなのでしょうか?また凍ったブドウでワインをつくると、どうして極甘口になるのでしょうか?


アイスワインになるブドウは耐寒性の強い品種

「ヴィダル」や「リースリング」といった寒さに強いとされる白ブドウ品種がアイスワインに使用されます。特に「ヴィダル」はアイスワイン用のブドウとして、約80-90%を占めます。

「ヴィダル」は皮が厚く、-25℃~-30℃の低温にも耐えられるほか、鳥害(鳥に食べられる)にも耐え抜く強靭さを持つんだとか。(まさか、ヴィダルサスーンというシャンプーの名前の由来では!と思いましたが、ヴィダル・サスーンという人の名前が由来。ちなみにブドウのヴィダルも、ジャン=ルイ・ヴィダルという人の名前が由来なそう✍️)

イタリアで最も広く栽培される白ブドウ品種「トレッビアーノ・トスカーノ」の高い酸度と糖分蓄積力、フランス産の耐寒性と病害耐性のある交配品種「レイヨン・ドール」を親にもつ「ヴィダル」。

もともとはフランスでコニャックをつくるために開発されたそう。コニャックをつくるブドウの特徴として、高い酸度と低い糖分が挙げられますが、「ヴィダル」は糖度が高いブドウなんだとか。カナダ・オンタリオ州のワイナリーで新しい寒冷地向け品種を探していたフランス人醸造家に見出され、海を渡りカナダで大活躍を遂げます。


ヴィダルの糖度が高くなる理由

ヴィダルの糖度が高い理由として考えられるのは、もともと「高い糖度(高い糖分)」を蓄積できる品種であることが挙げられます。

もう一つの要素として「収穫時期」が関係しています。通常秋頃に収穫されますが、その時期を過ぎてもずっと樹につけていることで、糖分がその分多く吸収されブドウに反映されていくのです。また秋以降は、昼夜の寒暖差が高いことも関係しています。昼間に光合成で溜めた糖分は、夜間の気温が低いと呼吸活動が抑えられ、蓄えた糖分の消費が少なくなります。

これらの要素が相まって、糖度の高さを保持したまま収穫の時を待つのです。


さらに糖度を高めてくれる冷凍の力

カナダでアイスワインになるためには、「VQA(Vintners Quality Alliance)」というブドウ醸造業者資格同盟が定める規定に従う必要があります。

それは「-8℃以下が3日間続いた後、収穫する」こと。マイナス8度以下で凍っている状態では、どのようなことが起こるのでしょうか?

まず水分が凍り、糖分が液体に残ります。ブドウが凍ると、水分は氷の結晶になりますが、糖分・酸・香り成分は凍らずに液体部分に残ります。凍ったまま圧搾することもルールとなっていますが、いったいどうなるのでしょうか?

凍ったブドウを圧搾すると、氷(水分)が取り除かれ、糖分が凝縮された果汁だけが抽出されます。
この果汁の糖度は通常のブドウの約2倍に達します。凍ったスポーツドリンクを解凍すると、最初に溶ける液体が甘いことを想像するとイメージがつきやすいのではないでしょうか。

濃縮された糖度の高い果汁を、低温でゆっくりと発酵させていきます。糖度が高いため、酵母がすべての糖分をアルコールに変えきれず、甘いワイン(デザートワイン)ができあがるのです。

酵母の活動限界

「糖度が高いため、酵母がすべての糖分をアルコールに変えきれず」

ここのフレーズが気になったので掘ってみます。アルコール発酵において糖分はとても大事だと思うのですが高過ぎてもダメなのでしょうか?

酵母はアルコール発酵を進める過程で、自身が作り出したアルコールにさらされます。一般的なワイン酵母のアルコール耐性は15%前後が上限で、それ以上になると酵母が死滅したり、活動が著しく低下したりします。 1つはこのアルコール耐性に達してしまうことが要因としてあります。

もう1つは、果汁中の糖分濃度が極端に高い場合、浸透圧が高くなり、酵母の細胞から水分が抜けてしまう「浸透圧ストレス」がかかります。これにより酵母の生育や発酵活動が抑制され、糖分が残ったまま発酵が止まることがあります。 

■浸透圧ストレスとのメカニズム

- 浸透圧とは?
半透膜(細胞膜のような、水だけを通す膜)を隔てて2つの液体があり、片方に溶けている物質(糖や塩など)の濃度が高いと、その溶液は水を引き寄せようとする力が働きます。この力を「浸透圧」と呼びます。

浸透圧が高い場合、溶液の濃度が高くなると(糖や塩がたくさん溶けていると)、浸透圧も高くなります。たとえば、キュウリに塩をかけると、キュウリの細胞内の水分が外に出てきてシナシナになります。これは外側(塩水)の浸透圧が細胞内よりも高いため、細胞から水分が抜けてしまう現象です。

- 酵母の浸透圧ストレス
酵母細胞の場合、酵母細胞は細胞膜が半透膜の役割を果たします。糖度が高い果汁の中に酵母が入ると、外の糖分濃度が高く(浸透圧が高い)、細胞内の水分が外に出てしまい、酵母細胞が脱水状態になります。これを「浸透圧ストレス」と呼びます。

そのため、糖分が全てアルコールに変換されず、ワインに甘みが残るのです。

糖分が高いといえば、蜂蜜もそうですよね。ミードづくりの場合は、蜂蜜だけではなく水で薄めることで糖分濃度を下げて、発酵を進めています🍯蜂蜜も凍らせてつくったらアイスミードになるのでしょうか?醸造チームに質問して、来週記事で回答したいと思います。

ここまで調べてみたからには、アイスワインが飲みたい。のですが、1本10,000円以上しており、怯んでしまいました。がしかし、ミードと飲み比べてみたりしても面白そうなので次回以降買ってみてテイスティングをしたいと思います。それではまた来週!

 

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