バレルエイジミードについて

先日、ANTELOPEでマンゴーを仕込み、ミードのバレルエイジについて学ぶイベントを開催しました。

その際に説明できなかったことも含めて、もう少し詳しめにバレルエイジについての解説をまとめてみました。

だらーっと書いているのですが、まとめるとミードのバレルエイジに関してはまだまだ情報が少なくて分からないことばかりなのでみんなでミードを盛り上げていきましょうという内容です。

〈もくじ〉

1. バレルエイジの基本

- お酒の熟成

- 酸化熟成と還元熟成

- 還元臭と日光


2. バレルの種類

⚫︎木材

- オーク

- その他の木材

⚫︎サイズ

⚫︎トースト

⚫︎中古樽


3. バレルの中で何が起こるのか

- オーク材から抽出される成分

- 微生物

- 熟成を加速させる


4. ミードのバレルエイジ

- ミードの酸化



1. バレルエイジの基本

バレルエイジとは、お酒を木樽の中で熟成させることです。

熟成により香りや風味が加わったり時間をかけてまろやかになっていきます。
また色味が変化したり、味わいに深みが出たりもします。


お酒の熟成

そもそも熟成とはなんでしょうか。
なんとなく時間の経過とともにアルコールのとがりがとれてまろやかになるイメージがあります。

これは実際間違ってはいないのですが、実のところ熟成について全貌はまだ解明されていません。

その中で一般的に言われているのが、アルコールと水は分子レベルでは混ざり合っておらず、時間とともに混ざり合っていくというものです。

これに対して、熟成には時間は必要ではなく、有機酸やポリフェノールといった成分が作用することでアルコールと水の水素結合が強くなり、アルコールと水の区別がなくなっていく(刺激感がなくなる)という研究もあります。

つまり瓶やステンレスタンクの中でも熟成は進みますが、よりポリフェノールなどの成分が多い木樽の方が熟成が進みやすいといえそうです。
さらに木樽の中でも使用回数をますごとにポリフェノールなどの成分が抽出されていくことや、中古樽にはワインなどから成分が抽出されるので、新樽やシェリー樽のようなもののほうが熟成が進みやすい。


酸化熟成と還元熟成

瓶やステンレスタンクと木樽のもう一つの大きな違いは酸素と触れるかどうか。

バレルは木材であるため木目から酸素が液体と触れる。
反対に瓶やステンレスタンクではco2などで満たすことで酸素との接触をさせないようにできる。

ではこの熟成はどう違いがあるのか?

熟成タイプ

酸化熟成

還元熟成

酸素の関与

あり

なし

香味の変化

複雑・濃厚・熟成香

フレッシュ・ピュア

色の変化

濃くなる、茶系へ

比較的安定、鮮やかさ保つ

熟成容器

木樽(古樽含む)

ステンレスタンク、瓶

オロロソ、マデイラ、古酒

フレッシュな白やピュアな赤

酸化的熟成は、「旨味・深み・複雑さ」を追求し、独特の香味(ナッツ・カラメル・熟成香)を楽しむ世界。

還元的熟成は、「フレッシュさ・ピュアさ・飲みやすさ」を保ち、果実の魅力をそのまま届けるスタイル。

このようにどちらの熟成もそれぞれの良さがあるのですが、反対に悪い方向に熟成が進むこともあります。
つまり酸化しすぎる、還元的すぎる場合です。
それぞれの劣化を比較しました。

比較項目

酸化劣化

還元劣化

香り

酢酸(お酢)・アセトアルデヒド・紙・カビ臭など

硫黄・ゴム・ゆで卵・マッチの火・下水のようなにおい

味わい

酸っぱく、苦く、バランスが崩れる。後味が金属的で不快

果実味が閉じ、香りが立たない。平坦でモワっとした印象

くすんだ茶褐色

色の変化はほぼなし

原因

・空気に過剰に触れた・SO₂不足・高温保存

・酸素が少なすぎる・亜硫酸過多・澱と接触したまま放置

対処法

・SO₂の適切な添加・低温・暗所で保存・酸素管理

・空気に触れさせる(デキャンタージュ)・時間経過で緩和

品質評価

「酸化臭」「劣化臭」としてマイナス評価

「閉じている」「還元臭」としてネガティブに捉えられることが多い

修復の可否

原則不可(酸化劣化は元に戻らない)

軽度なら可能(空気との接触で改善することも)

ミードに関しては体感として酸化劣化を感じることはすくないです。
それは酸化しやすい物質であるポリフェノールがワインに比べると少ないためだと考えられます。
ですので開栓して2週間たってもあんまり変わってないということもざらにあります。


還元臭と日光

反対に還元臭には気をつけたいです。
これには日光によるオフフレーバーも関係していると思っています。

何かというと、還元的な状態で瓶底に沈んだ酵母の自己融解が進むとメルカプタンという物質が発生します。
メルカプタンは何かというと、歯垢のあの匂いの原因です。
そしてこの物質は紫外線によっても発生するため、瓶を直射日光に晒すとあっという間に劣化してしまいます。

この日光による劣化は普段からよく感じているので、紫外線を通さない瓶や保管方法に気をつけることで防いでいきたいです。


2. バレルの種類

まずは少し歴史のお話。
ワインの生産は紀元前5000年に遡ります。
この頃発酵と熟成はアンフォラとよばれる粘土の容器で行われていました。

しかし壊れやすく重くて不便ということからバレルが開発されました。
バレルはもともとワインの熟成だけでなくいろんな物を船に乗せて運んだりするためによく使われていたので、お酒の熟成のためだけに使っているのはかなり最近のことなんです。

ここからはバレルについていろんな視点から見ていきたいと思います。


木材

バレルはオーク材で作られることがほとんどですが、それだけではありません。
様々な木材を用いてワインの熟成を観察した研究では、木材がワインの41種類のアロマに影響を与え、そのうち11種類は使用した木材の種類によってだけ存在することが分かったそうです。


オーク

オークは樽熟成に適した多くの特性を持っています。
まず比較的成長が遅いため木目が緻密であるため強度が高く、耐水性が高いです。
また他の木材にない特徴として木の成長後期になるとチロースという物質が樹液の通路を塞ぐので液体が浸透していかないようになります。

オークには代表的な2種類があります。
アメリカンオークとフレンチオークです。
それぞれの特徴を見ていきましょう。

  • アメリカンオーク

    • 原産地はアメリカだがどの地域かまでは言及されない

    • 木目が粗いために香りがつきやすい

    • 割りやすく加工しやすい

    • 比較的安価

  • フレンチオーク

    • フランスのどの地域で育ったかというテロワールの要素がある

    • 木目が細かいので香りはややつくのが遅い

    • タンニンが多い

    • 硬いので加工しづらい

    • かなり高価

フレンチオークの方が木目が細かいことから、樽熟成に時間がかかるがその分使える回数も多いそう。


その他の木材

  • アカシア

    • オーストリアでは白ワインやブランデーに使用される。

    • トーストしたオークのような甘みや豊かな風味とアロマがなく、タンニンとボディを与える。

  • クリ

    • オークはクリの木から生まれた。

    • オークよりも安価なため、ランビックの製造にも使用されている。

    • オークよりもタンニンが強く、防水性が低い。

    • 日本酒の発酵と熟成に使われる。

    • 樹脂っぽい。

  • ヒノキ

    • 脱脂され、糖化、発酵、貯蔵容器として使用される。

この他にもジュニパーやクルミの木も使われていたりと木材による味わいや香りの変化もとても面白そうです。


サイズ

世界的な基準となる樽はあるものの、用途などにより無数のサイズや種類の樽が存在する。
フランスの二大ワイン産地であるブルゴーニュとボルドーでも、標準樽のサイズ(それぞれ228リットルと225リットル)が異なり、形状やトースト処理にも大きな違いがあります。

代表的な物をそれぞれ紹介します。

  • バレル(190L) -アメリカのウイスキーとバーボン業界で使われる。

  • バリック(225L) -ワインの世界基準となっている。

  • バット(490L) -ウイスキー造りで、よりまろやかさと甘みを出すために用いられる。

  • フーダー(1000L) -非常に穏やかな熟成に向いている。

バレルのサイズに関して最も重要なことは、液体と樽が触れ合う表面積の関係です。
小さい樽ほど液体全体として樽と触れる面積が大きいので成分の抽出スピードが早く、酸素透過量が大きい。
つまり小さい樽ほど熟成は早く進み、大きい樽ほどゆっくりと熟成が進むといえそうです。


トースト

トーストとは、オーク樽の内側を直火で焼く工程のことです。
木材を加工しやすくするための工程でもありますが、樽熟成によってもたらされる風味や香りにも大きな影響を与えます。

焼き具合によってライトトースト、ミディアムトースト、ヘビートーストと分けられます。

トーストレベル

見た目

香味の特徴

ライト

薄い焼き色、木目がはっきり

フレッシュウッド、ミネラル、控えめなトースト香

ミディアム

中程度の焼き色

バニラ、ナッツ、軽いキャラメル、バランスの取れた香味

ヘビー

焦げ茶〜黒に近い色合い

焦がし砂糖、焚き火、ロースト、スモーク感

オークに熱を加えることによって様々な科学変化がおきます。
詳しくは後で話しますが、バーボンバレルではチャーリングというさらに強い火で短時間で表面を炭化させる工程があります。
これによってより強烈な甘くて香ばしい香りが生まれます。


中古樽

一度も使用されていない樽を新樽といいます。
ワインでは使えないワインなどを最初に入れて抜いてから使うぐらい新樽の影響は強いそうです。

しかしミードをバレルエイジしようとする場合新樽に入れる機会はほとんどないでしょう。
多くの場合ワインやウイスキーなどが入っていたバレルを使います。

ここで重要なことが2つあります。
・一つはバレルを使用する度にポリフェノールなどの木材由来の成分の抽出量はどんどん少なくなっていくということです。
・そしてもう一つは以前に入っていた液体の風味や香りの影響を受けるということです。

ではどのような樽があるのでしょうか。

元のお酒

特徴

ミードやワインへの影響

ワイン樽(赤・白)

フルーティー/酸味/タンニンなどが残る

赤→深み、白→酸とミネラル感を与える

シェリー樽

酸化的でナッツ、塩気、熟成感

複雑さ、ドライさ、酸化香の付与

バーボン樽

強いバニラ、キャラメル、ココナッツ香

甘みや厚み、バーボン感を加える

ウイスキー樽

モルトやスモーク、ピート香

スモーキーさや個性の強調に有効

ラム樽

黒糖、スパイス、トロピカルな香り

濃厚ミードやデザート向き

ブランデー樽

果実酒の香りと熟成感

フルーツミードに合いそう

この中で実際に使用したことがあるのはワイン樽(赤・白)とバーボン樽です。
印象としては、赤ワイン樽はしっかりタンニン感と赤ワインの風味がつく、白ワインは樽香が弱く木っぽい風味がつくなという感じです。バーボンはまさに濃厚なバニラとトースト感がつきやすいです。


3. バレルの中で何が起こるのか

ここからはバレルの中で起きている現象について見ていきましょう。

基本のところでも触れましたが、バレルの中では次のことが起きていると考えられます。

  • アルコールと水の間の水素結合が強くなる

  • 酸化反応

  • 木材成分の抽出

  • 微生物

この中でまだ触れていない木材からの成分について詳しく見ていきましょう。


オーク材から抽出される成分

  • バニリン

    • トーストによりリグニンが分解された結果生じる最も樽香として有名な成分。文字通りバニラの香りがする。

  • タンニン

    • 渋みになったり、酸化を安定させる役割もある。

  • ラクトン

    • ココナッツの香りと言われている。樹木に含まれる脂質に由来し、バーボンの特徴的な成分である。

  • フルフラール

    • キャラメルやアーモンドのような香り。ヘミセルロースがトーストにより分解されて生じる。

この他にも多くの成分が木材から抽出される。
多くがトーストによる影響を受けており、ヘミセルロースなどが分解されて糖分になることでメイラード反応が進みカラメルのような風味になる。

また以前入っていた液体がオーク材に染み込むこんでおり、それが抽出されることによる風味への影響も大きい。
標準的な樽では、2~4リットルのワインが数週間で樽に吸収され、次の樽に持ち越される液体の約1%を占めるほどだそう。

基本的には高温であるほど風味への影響は大きい。


微生物

酸素を通すということは酢酸菌などの微生物による汚染の可能性がある。

また嫌気性の状態にあってもブレッタノマイセスなどの酵母は繁殖する。
これを利用する作り方もあるがワインなどの世界ではよくないとされている。

なので腐敗や有害微生物の増殖を防ぐという点で、二酸化硫黄の添加が過度な酸化だけでなく、微生物による腐敗を防ぐために最も広く用いられている。


熟成を加速させる

ここまでバレルでの熟成について話してきましたが、バレルを使わずに熟成を進める方法がいくつも研究されています。

最も簡単なのは木片を使ったり、バレルの一部を浸漬させたりすることです。
これにより液体と木材の触れる表面積を多くすることができるので木材成分の抽出が早く進むということです。

これ以外にも詳しくは説明しませんが、超音波、マイクロ酸素化、パルス電場、高静水圧、マイクロ波およびガンマ線照射の使用といった科学的なアプローチもたくさんあり、より短期間でより質の高い熟成が可能になるかもしれません。


4. ミードのバレルエイジ

ここからは経験ベースでミードのバレルエイジ(熟成)について話していきます。
なぜ経験からなのかというとミードの熟成に関して詳しく説明している文献が少ないからです。

ミード界のボスであるケン・シュラムスの著書『the complete meadmaker』の中でもバレルエイジについての説明はあるのですが、これまで説明してきた以上にミードだからこうという情報はないです。

ただ、ミードの熟成に関して貴重なシュラムスの経験があります。

  • 非加熱のミードでは6~8ヶ月で飲み頃になる。

  • 加熱、煮沸したミードは飲めるようになるまで1年かかり、さらに1年かけてまろやかになっていく。

  • 軽いミードでは1~2年がピーク。

僕たちはバレルエイジを除けばそんなに熟成期間をとっていないのですが、1年以上とっておいたミードがすごく美味しくなっていることはよくあります。
ですので10~16度のセラー温度で直射日光を避けて保管することで熟成の面白さを楽しんでいただくこともできそうです。


ミードの酸化

バレルエイジでは酸化熟成が大きな要素であることは見てきました。

その中でミードはポリフェノールがワインやビールよりも少ないという特徴があります。
ポリフェノールが少ないということは酸化しずらいともいえそうです。
実際にミードでワインのような酸化を感じることはすくないです。

そう考えるとミードは酸化熟成に向いたお酒なのかもしれません。

基本的にはフレッシュな香りや味わいを維持したければ酸化を防ぎ、シェリーのような雰囲気にしたければあえて酸化熟成させるということになります。

ミードのバレルエイジについてはこのようにまだまだ情報が少ないですので、これからもっとミードを作る人が増えて飲む人が増えればさらに詳しいことが分かってきそうです。

 

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