「ここ、ウルグアイ」でおなじみのウルグアイ。先週はウルグアイのワインを語る上で外せない黒ブドウ品種「タナ」について触れました。
お隣アルゼンチンの「マルベック」と見た目は似ているのに、中身は全然違う。そんな両者を深掘りしてみました🍇(気になる方はぜひ、おはようびわ湖vol.111を振り返ってみてください!)
先週は赤ワインだったから、今週は白ワインについて学ぼう!と調べてみました。
そういえば先週、ウルグアイでは黒ブドウの栽培の方が盛んだと見かけた気がして、再度調べてみると、栽培面積の割合は、8(黒ブドウ): 2(白ブドウ)。感覚的にはとても大きな差に思えました。
本当にこれは大きな差なのか?
アルゼンチンやチリは7:3、フランスやスペインは6:4と黒ブドウ寄り。ところが、ニュージーランドはなんと2:8とウルグアイとは真逆。この謎を解くため、手がかりを集めてみました。
最初に浮かんだ仮説は「気候の違い」。先週タナとマルベックの違いを調べた時も、気候が味わいに大きく影響していましたよね。
黒ブドウは果皮が厚くて日焼けに比較的強いから、温暖な地域でも元気に育つ。でも白ブドウは果皮が薄いので、強い日差しを浴びると日焼けしやすい(実際はブドウが褐色になって品質が落ちる)。これが冷涼なニュージーランドで白ブドウが多い理由の一つ。
でも気候だけじゃなかった!もう一つ大きな理由は「食文化」なんです。
例えばニュージーランドでは海産資源に恵まれた環境から魚料理が好まれ、それに合わせた白ワイン(特にソーヴィニヨン・ブラン)の需要が高まっています。一方でウルグアイは肉食大国として知られ、年間1人あたり約60kgもの牛肉を消費するそうです(日本のおよそ6倍!)。週末になると「アサード」と呼ばれるバーベキューが各家庭で開かれ、町中が肉を焼く香りで包まれるんだとか🥩
『食とワインは卵と鶏問題』というのはイタリアの勉強をした時に聞いた言葉。どっちが先に生まれたのか?地域の食文化がワインの特性を決めたのか、それともその逆なのか。確かなことは、現在のワインの楽しまれ方から見ても、両者が深く影響し合っていること。
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ところでウルグアイは温暖な気候なので、白ブドウが好む気候とは言えなさそうです。そんな中、2割の栽培面積を持つ白ブドウはいったいどんな品種があり、どう育っているのか?詳しくみていきます🔍
ウルグアイの白ワインって、どんな品種があるの?
栽培面積のTOP3にランクインしているのは、「ユニ・ブラン」、「ソーヴィニヨン・ブラン」、「シャルドネ」。世界的に認知度が高く、フランスを原産とする白ブドウ品種たちです。
とはいえ恥ずかしながら「ユニ・ブラン」という名前は初めて聞いた私。調べてみると、コニャックやアルマニャックなどの蒸留酒(ブランデー)の原料として使用されることが多く、ワインとしての存在感はあまりないようでした。
なぜ「ユニ・ブラン」は蒸留酒でよく使われるのか?
そもそも蒸留酒で使われるブドウってどういう特性なのでしょうか?
まず、蒸留酒用のブドウは高い酸度を持っていると良いとされます。酸味がしっかりしていると、蒸留後の味わいにバランスとフレッシュさをもたらすんです。
高酸度の基礎ワイン(蒸留前のワイン)は、熟成中にエステル(バナナのような香りや、青リンゴのような香りなど)や、その他の化合物(アルデヒド(ナッツのようなニュアンス)やラクトン(ココナッツやバニラのような香り))を生成する際に重要な役割を果たします。
それから糖度は低めの方がいい。
アルコール度数が低いと蒸留時に必要な加熱温度が相対的に高くなります。そうすると、エステルやアルデヒドなどの香り成分も一緒に蒸発しやすくなり、最終的なスピリッツに多様で複雑な風味をもたらしてくれます。一方高いアルコール度数だと、低温で蒸留が進むのでこれらの成分が十分に抽出されずに結果として平坦な味わいになる可能性が高まります。
それに加えて、ブドウ自体はあまり個性的な味わいでない方がいいそう。これは樽の香りや熟成による風味を邪魔しないため。ワイン役者でいうと、名脇役タイプが求められるんです。
最後に、病気に強くて収穫量が安定しているとなお良し!ブランデーにする際にはたくさんのブドウを使うためです。
これら全ての条件を満たしている「ユニ・ブラン」。ワインでは主役になれなかったけど、ブランデーの世界で花開いた、なんだか勇気をもらえるブドウです。
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多様な気候条件に対応できる「シャルドネ」
TOP3の他のブドウをみると、「ソーヴィニヨン・ブラン」は冷涼な気候を好む傾向があります。そのためウルグアイでは海風の影響を受ける比較的涼しい地域で育っています。一方で、「シャルドネ」は多様な気候条件に適応できる柔軟性を持つ品種です。
■温暖な地域で育ったシャルドネ
温暖な気候で育つシャルドネは、「トロピカルフルーツ系の風味」と表現されます。これは南国の果物(パイナップル、マンゴーなど)を思わせる甘く熟した香りや味わいを指します。
温暖な気候では日射量が豊富で光合成が盛んになり、ブドウ糖(C6H12O6)が蓄積されて糖度が高まります。また、高温環境ではリンゴ酸が減少するため酸味が穏やかになり、甘さと熟した果実味が際立つワインになります。(リンゴ酸の現象の話はvol.111で詳しく説明しています!)
■冷涼な地域で育ったシャルドネ
冷涼な気候で育つシャルドネは、「酸味とミネラル感」が際立つと表現されます。
冷涼地域では日射量が少なくブドウ糖の蓄積もゆっくり進むため、甘さ控えめで酸味が保たれます。また、土壌由来の成分(例:石灰質土壌)がワインに影響を与えることで、「チョーク」や「湿った石」のようなニュアンスとして感じられることがあります。
ただし、「ミネラル感」は科学的には完全には解明されておらず、土壌だけでなく酸味との相互作用も関与していると考えられています。
■温暖地域でもミネラル感は生まれる?
温暖地域でも石灰質土壌など特定条件下ではミネラル感を感じられる場合があります。しかしながら、温暖地では糖度と果実味(トロピカルフルーツ系)が強調されるため、それらに隠れてミネラル感は目立ちにくい傾向があります。
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ウルグアイのブドウの勉強を通じて思ったことは、主要ブドウの多くがフランスやスペインなどヨーロッパが原産のものだということ。ウルグアイ原産のブドウはないのか?と調べましたが、今のところ確認されていないようです。
これだけブドウが育つ土壌があるのになんでヨーロッパ原産が多いのか。その秘密はワイン界の「オールドワールド」と「ニューワールド」という区分にありました(ジョジョのスタンドで存在しそうな名前)。
オールドワールド vs ニューワールド
それぞれその名の通り、オールドワールドはワインの長い歴史を持つヨーロッパと地中海周辺の国々。一方ニューワールドは、比較的近代になってからワイン生産が始まった、南北アメリカ、オセアニア、アジア(日本も含まれる)の国々を指します。
ニューワールドの特徴は、オールドワールドのブドウが新しい土地と気候条件に適応して、それぞれ独自の個性を発展させていること。今回学んだ「タナ」や「ユニ。ブラン」、アルゼンチンの「マルベック」がまさにそうですね。
オールドワールドにいるブドウたちは、まるで留学に行ったまま海外で活躍してしまった友達を少し羨むような、そんな気持ちで、ニューワールドのブドウを見ているのでしょうか。
ワインが育つ土壌があるのだから、ニューワールド原産のブドウも多くあっていいのでは?とも思いましたが、残念ながらそれは少数派。農業革命が遅れたことや、キリスト教の影響が少なかったことからブドウ生産があまり重視されてこず、固有品種がないとのことでしたが、まだあまり納得できていません!これはまたどこかでじっくり調べてみたいと思います。
まだまだワイン勉強の旅路は続きます🍷これからもどうぞよろしくお願いします!