ANTELOPEで、ミードの醸造に携わるユウスケ。
普段は冗談を交えながら作業をこなす彼に、あえて少し照れくさいテーマである「心が動く瞬間」や「愛」、そして「未来」について問いかけてみた。

そこから見えてきたのは、植物を愛でる優しさと、ラガーマン時代から培われた「縁の下の力持ち」としての仕事の流儀だった。
心が動くのは「成長」を感じたとき
インタビューの冒頭、最近心が動いた瞬間について尋ねると、彼は少し考え込んだあと、ある漫画作品の名前を挙げた。
「『スキップとローファー』っていう作品ですね。石川県の田舎から上京してきた女子高生が、東京の人たちに揉まれながらも、友人たちと衝突したり気持ちを伝え合ったりして成長していく物語なんです」
恋愛要素もあるが、彼が惹かれたのはそこではないと言う。
「心のモヤモヤを乗り越えていく過程とか、そういう『人の成長』が描かれている部分に、ああ、いいなぁって心が動かされましたね」
「好き」はピンク、「愛」は赤
今回のインタビューのテーマは「愛」。ユウスケにとって、愛とはどんなイメージなのか。彼は色に例えてこう表現する。
「なんとなくですけど、『好き』はピンク色で、『愛』は赤色のイメージですね。ピンクの方がちょっと軽くてふわっとしている。対して愛の『赤』は、もっと真剣な場面で使うような、情熱的な感じがします」
そんな「赤い愛」を日常で感じる瞬間はあるのだろうか。
「一人でいる時に愛を感じることはあまりないですけど……あ、『愛でる』という漢字は愛ですよね? そう考えたら、僕は植物を愛でている時、そこに愛はあるかな」
彼は現在、アンテロープでローズマリーなどのハーブを育てている。また、工場の玄関には、元々は根っこだけだったガジュマルがあり、毎日水をやって葉が出るまで育て上げたという。
「誰かといる時に感じる愛もありますけど、こうやって手をかけて育てている時間には、確かに愛があると思います」
前職で培った「現場への愛」と仕事の流儀
現在アンテロープに入社してもうすぐ2年になるユウスケだが、以前は全く異なる業界にいた。滋賀県日野町で、プラスチックゴミを燃料に変える産業廃棄物処理の工場に勤務していたのだ。
「工場という無機質な現場に愛はあったのか?」という意地悪な質問に対し、彼は彼なりの「仕事愛」を語ってくれた。
「愛と言えるかわからないですけど、搬入業者のドライバーさんへの接し方には気を使っていましたね。できるだけ待たせずに早く荷物を下ろさせてあげたい。そのために工場内の整理整頓をしておく。そういう気遣いはしていました」
いわゆるブルーカラーの現場において、外部の業者を下に見たり雑に扱ったりする人もいる中で、ユウスケの姿勢は一貫していた。
「みんなが働きやすい方がいいじゃないですか。不満なく働ける環境を作るというか。そのためなら、自分が多少『苦い汁』を吸ってもいい。とりあえず自分が動こう、みたいな」
その自己犠牲の精神は、学生時代のスポーツ経験に基づいているようだ。
「ラグビーでいうフォワードのような、『縁の下の力持ち』的なポジションが性に合ってるんでしょうね。親父も無口で背中で語るタイプだったし、そういうのが普通だと思って過ごしてきました」
この精神は現在のアンテロープでも生きている。醸造、発送、マーケティングなど多岐にわたる業務が円滑に回るよう、仕込みの準備やパレットの整理など、見えない部分でチームを支えているのだ。
地元・熊本からの愛、そしてこれからのこと
大学時代まで過ごした地元・熊本への思い入れも強い。留学生の友人に地元の良さを伝えようと奔走した日々や、最近熊本で開催したイベントでの出来事が、彼の中の「愛」を形作っている。
「熊本でイベントをした時、友達がたくさん来てくれて、過去最高の売上を達成できたんです。一人ひとりからは小さなことかもしれないけど、見方を変えれば、みんなからの愛をもらったんだなって思います」
最後に、10年後の未来について尋ねてみた。彼はある記事で読んだという「幸福度」の話を引き合いに出した。
「『10年後の未来は今と変わっていますか?』という質問に、『同じです』と答える人の方が幸福度が高いらしいんです。だから僕も、今の生活が続けばいいなと思っています」
もちろん、会社の売上が伸びることや、ミードという文化が広まることは望んでいる。
「ミードを知らない人に美味しさを伝えて、その人がお酒を飲む時の選択肢の一つにミードが加わる。それによって、その人の時間がもっと豊かになればいい。そういう一助になれたら」
大きな変化を渇望するのではなく、今の生活を愛し、植物を育て、美味しいお酒を作り、周りの人が働きやすいように動く。
「変わらないこと」を願いながら、着実に根を張り、枝葉を伸ばしていくユウスケの姿は、彼が愛でてやまないガジュマルの木のようでもあった。