瓶の向こうにある「人」を見せたい
東京駅から少し離れたサラリーマン街に佇む〈今田商店〉。
棚に整然と並ぶ瓶たちは、一見するとどれも同じ形をしているようで、実はそれぞれに「作り手の物語」が詰まっています。
今田さんとお話した時、その言葉の端々から感じたのは、
「お酒ではなく、人を伝えたい」
という強いまなざしでした。
その視線は、ただ商品を売る人間のものではなく、作り手とお客さんをつなぐ“橋”としての誇りすら宿していました。

酒屋の枠を超えていく
今田商店は、もともと地域の御用聞きとして長年親しまれてきた酒屋。配達中心の時代から、時代の変化に合わせて少しずつスタイルを変えてきました。
今の姿に大きく変わったのは、
「無名の蔵を応援したい」
という想いに気づいてから。
営業力のない小さな蔵でも、丁寧につくられた銘柄がたくさんある。そのことを知った今田さんは、お店を“発信の場所”へと変えていくことを決意します。
瓶の向こうの“人”を伝えるのが、自分の役目
今田さんが仕事で感じる「愛」の源泉はどこだろうか。
「瓶だけ見ても何もわからない。 だから、そのお酒を作る“人”を伝えたい」
たとえば、蔵の環境、作り手がどんな音楽を好むのか、どんな地域で育ったのか。ラベルからは読み取れない背景を丁寧に伝える姿は、まるで友人を紹介するような温かさがあります。
試飲を通じて味を知ってもらったり、銘柄に合わせたつまみの話をしたり、さらには「氷を1つ落としてロックで飲むと和食に合う」といった具体的な提案まで。
そこにあるのは、「この人のつくるお酒を、あなたにも好きになってほしい」という純粋な愛情でした。
人生の谷を越え、店は“地域の場”になった
今田さんはお店に戻り、約20年この店を支えてきました。その間、家族の病気、売上の不安、地域の変化。いくつもの山と谷を越えてきたと語ります。
そんな中でも、イベントを企画したり、店の2階を地域の集いの場として開放したり。
「お酒を通じて、人と人がつながる場所をつくりたい」
そう語る姿は、酒屋というよりも“まちの案内人”のよう。
実際、イベントの日には30〜40人が訪れ、初めて来た人同士が「楽しかった」と笑顔で帰っていく光景が広がります。さらに、沖縄での経験で得た「人に良くしてもらった記憶」が、今田さんの原動力になっているとも話します。
だからこそ、自分も誰かに“良さ”を渡していきたい。そんな優しさが店全体に染み込んでいます。
ここは、お酒が人を連れてくる場所
今田商店を訪れると、ただ“お酒を買いに来た”という感覚では終わりません。
お店に並ぶ銘柄はどれも、今田さんが惚れ込み、深く知り、「この人のつくるお酒を知ってほしい」と心から願っているもの。その熱量が、来店した人の心に自然と伝わります。
疲れた日にふらりと立ち寄ったら、そこに誰かの人生と愛が置いてある。
そんな、不思議な安心感のあるお店です。
あなたもぜひ一度、今田商店へ。瓶の向こうに隠れている“人の物語”を、感じに行ってみてください。