Good Morning! 今週もオーストラリア編🇦🇺
先週はオーストラリアに持ち込まれた初代のブドウ「セミヨン」がテーマでしたが、今週はオーストラリアで最も「シラーズ」について深掘りします🔍
「シラーズ」は、オーストラリアのワイナリーの8割が育てている品種で、黒ブドウ品種のうちの半分以上の栽培面積を誇るオーストラリアを代表する黒ブドウ品種です。
YOU SAY SYRAH, WE SAY SHIRAZ!
フランスをはじめ、世界のほぼ全ての地域で「シラー」と呼ばれていますが、国際市場での大きな商業的成功により、オーストラリアの生産者は自国のワインを「シラーズ」とあえて表記することを選んでいます。
シラーがどのようにしてシラーズになったのかは、
・元の苗木のラベルが間違っていたためだという説
・単にオーストラリアなまりが強かったためだという説
など諸説あるようですが、ほんとのところは未だ謎に包まれているそう。(日本で唐揚げのことを北海道では「ザンギ」って呼ぶみたいな感じでしょうか?🐔)
今回はオーストラリアのお話なので、「シラーズ」と表現を統一します。
ちなみに「シラー」はインドヨーロッパ語の「ser-」(長期間を意味する言葉)に由来していると言われています。長期熟成に適した品種であることから、「長期間」という意味の語源と結びついている可能性があるそう。シラんかった!
カメレオン的ブドウ「シラーズ」
シラーズは不思議な品種。環境によって味わいや香りがガラッと変わるので、まるでカメレオンみたい。冷涼な気候(15〜20°Cくらい)では酸味と果実味のバランスが取れてかつ「黒コショウ」のような香りを醸し、温暖な気候(25〜30°Cくらい)では濃厚で果実味豊かな力強さを発揮します。
とはいえ極端に寒冷だったり暑すぎたりする環境はNG。
どのブドウでもそうなんじゃない?と思いましたが、世界には-40度まで耐えられるブドウ「Valiant(ヴァリアント)」だったり、逆に40度まで耐えられる「Vermentino(ヴェルメンティーノ)」も存在するよう。世界は広い🌏
■冷涼な気候で育つシラーズ
冷涼な気候で育ったシラーズは、温暖な地域で育つものと比べて成熟がゆっくり進みます。このため、ブドウの中にある「リンゴ酸」が急激に減少せず、酸味と甘みのバランスが絶妙に保たれます。
さらに面白い特徴として挙げられるのが、「黒コショウ」のような香り。この香りの原因は「ロタンドン」という化合物です。ロタンドンは、ブドウの果皮に含まれる「α-グアイエン」という成分から生まれます。このα-グアイエンは植物が作り出す香り成分(セスキテルペン)の一種で、植物が自分を守ったり昆虫を引き寄せたりするために生成されます。その結果、「黒コショウ」のようなピリッとした刺激的な香りを生み出すのです。
ロタンドンは、ブドウが熟す過程で光や酵素による作用で生成されます。酸化反応によってロタンドンは水溶性がわずかに増し、これによって人間の嗅覚センサー(嗅覚受容体)に結びつきやすい構造になります。つまり、この変化が「黒コショウ」の香りを私たちが強く感じる理由なのです。
冷涼な気候では成熟期間が長いため、このα-グアイエンがたっぷり蓄積され、それがロタンドンへと変化していきます。こうして冷涼地のシラーズ特有の「黒コショウ」の香りが際立つワインになります。
■温暖な気候で育つシラーズ
温暖な気候で育ったシラーズは、冷涼な地域で育つものとは異なり、日射量が多く、成熟が早く進みます。このため、ブドウの糖度が急速に上昇し、果実味が豊かで濃厚なワインが生まれます。
さらに特徴的なのは、熟した黒系果実(ブラックベリーやプラム、ブルーベリーなど)の香り。この香りは、ブドウ内で生成される「モノテルペン」や「エステル」と呼ばれる香り成分によるものです。これらの成分はブドウが熟すにつれて活性化し、「濃厚な果実の香り」を生み出します。これはブドウが種子を完全に成熟させた後、自分を守る防御機能を緩めて香り成分を放出し、動物や昆虫を引き寄せる自然の仕組み🍇
また、ダークチョコレートやリコリス(甘草)のようなニュアンスも感じられることがあります。これらはブドウ内に含まれる「フェノール類」(渋みや色みを作る成分)が熟成中に変化することで生じます。温暖地では日照量が多く、高温や乾燥ストレスによってフェノール類が豊富に生成されます。このフェノール類が熟成中に変化して複雑な風味となり、ダークチョコレートやリコリスのような深みのある香りを引き出します。
温暖ということはその分、日射量が多い。日差しからブドウを守るため、果皮が厚くなる傾向がありますね。皮が分厚くなることで、身を守るための防御物質=タンニン(渋み)が豊富になるため、渋みもしっかり感じます。
■違う顔を見せるシラーズ、どちらの気候で作られることが多い?
数字の根拠は見つけられませんでしたが、どうやらシラーズは温暖な気候で栽培されることの方が多いようです。温暖な地域では収量も多く、大規模生産に適しているため、商業的にも有利。これがシラーズが温暖地で栽培される理由のひとつでしょう。またそもそも温暖な気候の地域の方が多いということもあります。
またオーストラリアがこの品種をあえて「シラーズ」と呼んでいることも関係しているのでは?と推測します。シラーズのふるさと北ローヌ地方(フランス)では、比較的冷涼な気候で、ミディアムボディで酸味とスパイス感が際立つシラーが作られています。
そんなフランスの「シラー」とは違う、自分たち独自のスタイルを大切にしたいという思いもあるのではないでしょうか?
そんな「オーストラリアならでは」の味わいが期待できる、オーストラリアの主要なワイン産地「バロッサバレー」のワイナリー「ペンフォールズ」のシラーズをテイスティングしてみました🍷
■今週のテイスティングレポート
マックス シラーズ 2021 | ペンフォールズ
今回テイスティングしたのは、オーストラリアの名門ワイナリー「ペンフォールズ」。その歴史を紐解くと、なんと始まりは医療用の「ワイントニック」だったというから驚きです。
1844年、南オーストラリアのアデレード近郊で医師クリストファー・ローソン・ペンフォールズとその妻メアリーが設立したこのワイナリー。当時のワインは、貧血患者に処方される「薬」だったそうです。今や世界中で愛されるワインブランドが、そんなユニークなスタートを切っていたとは!
そしてペンフォールズの名を不動のものにしたのが、「グランジ」というアイコニックなワイン。その生みの親は、情熱的な醸造家・マックス・シューベルトです。
彼は1950年代初頭、フランス・ボルドー地方を訪れた際に「長期熟成可能な赤ワイン」に魅了され、自分もオーストラリアでそれを作ろうと決意。しかし、当時のオーストラリアではボルドー品種が不足していたため、シラーズを主体にした独自の赤ワインを作り上げました。ところが、その革新的なスタイルは当初批判され、上層部から生産中止を命じられる始末。それでもシューベルトは諦めず、こっそり作り続けた結果、1960年についに市場で大絶賛されることに!
こうして「ペンフォールズ グランジ」はオーストラリアワイン界の象徴となったのです。 今日飲む「マックス シラーズ」は、そのシューベルトへの敬意を込めて名付けられた一本。
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・外観:深みと輝きが共存している魅力的な見た目。ダークチェリーのような濃い色。さらっとしたテクスチャー。
・香り:上にはベリーっぽい華やかさを感じるけど奥にはジャムのようなどっしりとしたニュアンスを感じる。ダークチョコレートのような香りも微かに感じた。アルコール感を感じさせるようなツンとした香りも。(これが黒胡椒っぽい香りなのかな?)
・味わい:さらっとした飲み口ですが、力強い渋みとアルコール感を感じます。ただ余韻は結構長くて、甘いぶどうの果汁のような満足感が広がります。クランベリーケーキやフルーツタルトと一緒に楽しんでみたいと思いました。
・価格:3,300円(税込)/750ml
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