前略、ソムリエな君 - 最初に導入されながらも今は脇役の「セミヨン」オーストラリア編

Good Morning! 今週はオーストラリア編🇦🇺

今週も英語圏の紹介ですが、ところ変わってオーストラリアにやってきました🐨

あいうえお順で勉強を進めているため、「え」の英国の次は「お」のオーストラリア。でも面白いことに、オーストラリアのワインの歴史はイギリスから始まっていたんですよ!なんという偶然。

1788年、アーサー・フィリップ大佐(オーストラリア最初の植民地であるニューサウスウェールズの初代総督)が「セミヨン」などの白ブドウをシドニーに持ち込んだのが始まりでした。

大佐がシドニーへ向かう途中、南アフリカのケープタウンに立ち寄ったときに「ブドウ栽培とワイン生産、成功してるやん!」と気付き、同じブドウをオーストラリアでも試そうとしたよう。

当時のオーストラリアはイギリスの囚人流刑地でしたが、囚人たちが飲むためのワインというよりは、自給自足と将来の輸出産業を見据えた選択だったのです。

「セミヨン」の他にもいくつかのブドウが持ち込まれたようですが、それらはほとんど白ブドウでした。この歴史の幕開けは、現在のオーストラリアのブドウ栽培事情にも引き継がれているのでしょうか?

調べてみたところ、答えはNO。黒ブドウと白ブドウの割合は6.5: 3.5。ウルグアイでは8:2、ニュージーランドでは2:8などと比べると、バランスの良い割合ですが黒ブドウが優勢。

最も面積が多いのは黒ブドウ品種の「シラーズ」で全体の約34.19%最初に持ち込まれた「セミヨン」は白ブドウの中では3位にランクインするものの約4.27%。

最初に導入されながら今は脇役、もう一方は後発でありながら主役に。この構図はいったいなぜ起こっているのでしょうか?


「セミヨン」はなぜ天下を取れなかったのか?

考えられるのは、供給の難しさ(=育てにくい)需要とのミスマッチ。それぞれ見ていきましょう!

■供給の難しさ:セミヨンはオーストラリアの気候では育ちにくかったのか?

オーストラリアは広大な国土を持つ(なんと日本の約20倍の大きさ)ため、「一口にオーストラリア」と言っても、地域ごとに気候が全然違います。主に6つの州で作られますが、例えば南オーストラリア州には暑く乾燥した地域もあれば、冷涼で湿度が高い地域もあります。

セミヨンが育つ理想的な環境とは?

・温度: だいたい20°C~30°Cくらいがちょうどいい。果皮が薄いのでこれ以上暑いと日焼けしてしまうし、寒すぎると霜害でダメージを受ける。日本の気候で考えると、夏の猛暑や冬の厳しい寒さがあるエリアでは栽培が難しそうですね。

・湿度: セミヨンは「二面性」を持っています。水不足には敏感なのに、湿度が高すぎるとカビや腐敗のリスクも高まる。まるで「水は欲しいけど、濡れたくない」と言っているようです。

オーストラリアの乾燥地域では灌漑技術で水分管理をしていますが、日本の梅雨のような高湿度環境では病気対策が重要になりそうです。

土壌: 排水性の良い砂質ロームや、粘土ローム土壌を好みます。水分不足に敏感ですが、それよりも腐敗のリスクの方が高いので、水分保持力が高い土壌は向いてない。根をどんどん地下に伸ばして深部から水分を得るという生存戦略をとっています。


早熟品種とは?

セミヨンは果実内で糖分が急速に蓄積されるため、収穫適期が早く訪れます。またそれにつれて酸味が減少するため、適切な酸味を維持するためには早めに収穫する必要があるのです。

このように見ると、セミヨンは「繊細だけど頑固」な性格を持つブドウだと感じます。

 

オーストラリア全体で見ると、

・気候条件を揃えるのが難しい

・灌漑技術と病気対策にコストと労力がかかる

・早熟品種ゆえ適切な収穫の時期が短くタイミングを見極めるのが難しい

それらの理由が重なり、セミヨンの生産量は減ってしまう運命となったのです。

■市場需要とのミスマッチ

シャルドネやソーヴィニヨン・ブランなどが台頭したことにより、セミヨンの需要は相対的に低くなってしまいました。フレッシュでフルーティーな白ワインが好まれる傾向が強く、即飲性や親しみやすさを持つこれらの品種が支持されています。一方、セミヨンは熟成によって真価を発揮する品種こうした市場とのミスマッチから、セミヨンは市場全体では縮小傾向に向かってしまいました。ただ、特定地域では熟成型ワインとして独自性を発揮し続けています。それはいったいどんな地域なのでしょうか?


セミヨンの栽培が成功している地域とは?

・ニューサウスウェールズ州(ハンターバレー) 

シドニー北部に位置する地域。(フィリップ大佐の読みは素晴らしい!)

ハンターバレーは高湿度と夏季降雨量が多い地域。この環境ではセミヨンは早熟で収穫時期が短いため、雨害を避けやすい。そしてこの地域ならではの特徴として、熟成すると蜂蜜やトースト香を持つ独特のスタイルになることが挙げられます。

引用元:https://www.decanter.com/premium/experts-choice-hunter-valley-semillon-2-542091/

その味わいの秘密は「ソトロン」という化合物。このソトロンは、ワインが熟成する過程で生まれるもので、特に酸化が進む環境で増えていきます。ハンターバレーのセミヨンは、酸味がしっかり残っているため、この化学変化が起こりやすいのです。

具体的には、ワインの中に含まれるアミノ酸や糖分、酸化されたアルデヒド類が互いに反応して「ソトロン」という化合物を作り出します。このソトロンが蜂蜜やナッツ、カラメル、さらにはスパイス(例えばカレー粉)のような独特の香りを生み出します。特に長期熟成した白ワインや貴腐ワインでは、この香りが際立つことが知られています


・南オーストラリア州(バロッサバレー) 

オーストラリアで最も古く最も優れたワインの産地の1つとされています。シドニーからは西に1,350km離れたところにあります。

バロッサバレーは暑く乾燥した地中海性気候ですが、灌漑技術を活用することでセミヨン栽培を成功させています。この地域ではリッチでフルボディなスタイルのワインが作られることが多く、その濃厚さが特徴です。高温の環境のため、酸味が減少しやすく糖度が高くなることからフルボディ向きとなります。


・西オーストラリア州(マーガレットリバー) 

シドニーとは真反対の位置にあるマーガレットリバーは、地中海性気候とインド洋からの涼しい海風の影響で、昼夜の温度差が大きく、ブドウが糖分を蓄えつつ酸味を保つ理想的な環境が整っています。この地域ではソーヴィニヨン・ブランとのブレンド用として栽培されることが多いです。

ソーヴィニヨン・ブランは、冷涼な気候では酸味が強く柑橘系の香りがしますが、この地域ではパッションフルーツやパイナップルが熟したような甘さが広がります。

またセミヨンはハンターバレーほどシャープな酸味はなく、どちらかというとバロッサバレーに似ており糖度が高めのブドウになります。

単体では比較的ボディが軽く、熟成のポテンシャルが低いソーヴィニヨン・ブランと、柔らかいテクスチャーと熟成ポテンシャルを持ったセミヨンがブレンドされることで、バランスの取れた魅力的なワインとして愛されています。(このブレンドはフランス・ボルドー地方で古くから行われています)

オーストラリア全体では育ちにくく、市場需要の変化に淘汰されてしまったセミヨン。でもその個性的な魅力ゆえに特定地域では輝き続けています。フィリップ大佐の決断が250年の時を経ても、まだセミヨンがオーストラリアで生きているのは感慨深いですね。きっとフィリップ大佐も誇らしい気持ちなはず。

ところで、「シラーズ」はなぜここまで台頭したのでしょうか?今日は「セミヨン」についてじっくりしてしまったので、シラーズの謎については来週深掘りしていきますね🍇See you on next week!!

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