Good Morning! 今日は先週に引き続きイギリス編🇬🇧
先週はイギリスではスパークリングワインの生産が盛ん、というところまで書きましたね。(おはようびわ湖 vol.125)なんとなく「スパークリングワインが盛んな地域は暑い地域」と思い込んでいた自分にとってまた新しい発見です。嗚呼、面白い。
そうでないなら、きっとスパークリングワインにするのに向いているブドウが育つのでは?と思い探ってみました。
そもそもスパークリングワインってなんだろう?
泡がついているワインでは?半分正解で半分NO。
スパークリングワインとは、炭酸ガスが瓶の中に閉じ込められた発泡性のあるワインの総称。
また3気圧以上のガス圧を持つものが、スパークリングワインと定義されています。
泡のついているワインとして有名な「シャンパン」もスパークリングワインの中に含まれます。(ガスの気あるは5~6気圧に達する)
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・1気圧未満の場合:微発泡ワインと呼ばれ、スパークリングワインには分類されない。
・1~2.5気圧の場合:弱発泡性ワインと呼ばれ、スパークリングワインに分類される。
フランス語ではペティヤン(Petillant)、イタリア語ではフリッツァンテ(Frizzante)と呼ばれます。(フランス語で「Pétillant」は「ぱちぱち弾ける」「きらめく」という意味、イタリア語の「Frizzante」は、「frizzare(弾ける、チクチクする)」だそう。パチパチワイン、弾けるワイン、チクチクワイン。うむ、なぜか外国語の方がおしゃれに見えてしまうなあ)
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2.5~3気圧はどうなの?と思ったところ、弱発泡性ワインに含まれたり、スパークリングワインとして扱われたり、炭酸感によってケースバイケースなよう。
ちなみにビールは1.5~2.6、炭酸水は3気圧くらい。炭酸水を飲んでアルコールを飲んでいるような気分になれることに勝手に納得。
■飲み物における気圧とは?
瓶の中に溶け込んでいる炭酸ガス(二酸化炭素)がどれだけの圧力をかけているかを表しています。
1気圧とは、地球の海面で感じる空気の重さを基準にした圧力です。例えば、私たちが普段呼吸している空気は1気圧の状態。
ワインの場合、瓶の中で炭酸ガスが液体に溶け込んでいて、そのガスが瓶の内側に押し付ける力(圧力)が「気圧」として測定されます。気圧が高いほど、炭酸ガスがたくさん溶け込んでいて、開けたときに泡立ちが強くなるという仕組みです。
ではこの炭酸ガスは注入されるのが主流なのか、それとも瓶内二次発酵が主流なのか?
どうやってスパークリングが生まれるのだろう?
どちらが主流かというと、答えは別の方式が主流でした。
その名も「シャルマ方式」。この製法を発明したフランス人のユージン・シャルマ(Eugène Charmat)さんにちなんで名付けられました。日本語では密閉タンク方式と呼ばれ、密閉タンクの中で二次発酵が行われます。
1. シャルマ方式
まずアルコール発酵を終えた状態のスティルワインをつくり、それをタンクの中に入れます。そこに糖分と酵母を加えることで、アルコールと炭酸ガス(二酸化炭素)が発生し、そのガスがワインに溶け込むことで泡が生まれます。
糖分と酵母ってたくさんあるけれど、どんなものが使われるのでしょうか?
調べてみると、糖分と酵母を混ぜた「リキュール・ド・ティラージュ(liqueur de tirage)」という混合物が使用されるようです。フランス語で「Tirage(ティラージュ)」は「引き出す」という意味。「二次発酵を引き出す」ということからこの言葉になったようです。
以下の成分を混ぜ合わせてつくられています。
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・糖分:主にサトウキビや甜菜由来のショ糖、または濃縮ブドウ果汁
→ショ糖は発酵後に甘みとして残らず、ワインの風味を損なわないため、二次発酵に適しています。また濃縮ブドウ果汁は、ワインの自然な風味に寄与するので使用されることがあります。
・酵母:主にサッカロマイセス・セレビシエ
→アルコール耐性が非常に高く、アルコール度数が高い環境でも活発に働くことができるため使用されています。酵母の細胞膜には、脂質(二重層)が含まれており、この構造がアルコールによるダメージから細胞を保護します。サッカロマイセス・セレビシエには、特定の脂質(例:エルゴステロール)を多く含むことで、細胞膜の安定性を高めており、アルコールが細胞膜を破壊しようとする作用に対抗してくれます。理論上23%まで生存可能という説も。
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タンクは密閉空間なので、ワインは空気にほとんど触れないことから酸化の影響が少ないのも特徴。
ワインの酸化とは、酸素と接触することで香りや味わいが変化する現象。ワイン中に含まれるフェノール類(ポリフェノールなど)が酸素と反応し、「キノン」という物質に変化します。このキノンは、ワインのフレッシュな香りを構成する「アロマティックチオール」(例:グレープフルーツやトロピカルフルーツの香り)と反応し、それらを失わせます。
また酸化過程で「ヒドロペルオキシルラジカル」や「ヒドロキシラジカル」といった活性酸素が生成されます。ヒドロキシラジカルはエタノール(アルコール)を酸化し、アセトアルデヒド(酢酸アルデヒド)を生成します。これにより、不快な香りが生じることがあります。タルタル酸やリンゴ酸などの有機酸が酸化されてケト酸(例:グリオキシル酸)に変わります。これにより、味わいが変化し、不快な風味に感じることもあるそう。
そんなシャルマ方式は、一度に大量のワインを瓶内二次発酵に比べて短期間(2週間〜2ヶ月ほど)で製造可能で手間も少ないため、リーズナブルな価格帯のスパークリングワイン製造の際に使用されています。(ex. イタリアの「プロセッコ | Procecco」、「スプマンテ | Spumante」)
炭酸ガスは、長い時間圧力の高い状態にいるとワインの液体にどんどん馴染んでいき、細かい泡になります。瓶内二次発酵に比べて短期間かつ圧力が低い状態のシャルマ方式では、比較的泡の大きさが大きくなるのが特徴です。
それでは、炭酸ガスを注入するタイプと瓶内二次発酵タイプもそれぞれ特徴を見ていきます🔍
2. 炭酸ガスを注入する方式
すでに完成しているスティルワインに炭酸ガスを直接吹き込みます。「すでに完成している」ので、風味や香り、糖度や酸度、そしてアルコール度数は変化しないのが特徴。こちらもガスと液体が接触している時間が短いので、泡の粒は大きくバチバチっとした刺激で、炭酸が抜けるのも早いです。
比較的簡単で短期間で生産可能、そして大量生産が可能なので、低コストでカジュアルなスパークリングワインに用いられることが多いです。(ex. イタリアの「セッコ | Secco」、ドイツやオーストリアの「パールワイン | Perlwein」)
3. 瓶内二次発酵方式
スパークリングワインを作る伝統的な方法で、シャンパンやカヴァなど高品質なスパークリングワインに使用されています。この方式では、瓶の中で二次発酵を行い、炭酸ガスを自然に生成してワインに溶け込ませます。
二次発酵を起こす方法は、シャルマ式と同じで「リキュール・ド・ティラージュ」を加えます。シャルマ式はタンクの中なのに対し、こちらは瓶の中。6~8週間寝かせた後、さらに「熟成」という期間に入ります。
この「熟成」期間には、酵母が死滅した後(オリとなった後)に自己分解を起こし、その細胞内の成分がワインに溶け出す現象(オートリシス)が起こります。オリはタンパク質の塊。その時、アミノ酸やペプチドなどの旨味成分がワインに放出され、「パン」や「ナッツ」のような香りと風味が加わります。
このアミノ酸がワインの中に残る糖分とゆっくり反応することで、メイラード反応が起こり、化合物(例:ピラジン類、フルフラールなど)が生成され、「パン」や「ナッツ」のような香りと風味が生まれるのが特徴。
熟成の期間はシャンパンだと15ヶ月以上、カヴァなら9ヶ月以上、中には3年以上も熟成させるものもあります。「ドン・ペリニヨン」だと8年以上も寝かされるのだとか。
ここまでスパークリングワインの製法について詳しく触れてきましたが、忘れてはいけないのは今回はイギリスの回🇬🇧イギリスでは今まで挙げた3つの中で、どの製法で作られているのでしょうか?
イギリスのスパークリングワイン
手がかりがなく、なんとなくイギリスは高品質なものにこだわってるのではないか?そう思ったところ、やはりイギリスでは主に瓶内二次発酵方式で作られます。
瓶内二次発酵で作られるのにはきちんとした理由があるはず。そう思い調べてみると、イギリスで作られているブドウの特徴と関係がありそうです。詳しく見ていきましょう。
瓶内二次発酵に使われるブドウとして好まれるのは、酸味が高いブドウです。熟成中、ワインのフレッシュな果実味は徐々に穏やかになり、熟成由来の香り(パンやナッツの香り)が前面に出てきます。このとき、酸味が高いブドウはワイン全体のバランスを保ち、爽やかさやシャープさを失わないため重要です。
また、熟成によって香りが変化しやすいブドウも好まれます。熟成によって香りが変化しやすいブドウは、若い時にはフレッシュな香り(青リンゴや柑橘系)だったものが、熟成するとパンやナッツのような香ばしい香りに変化します。このように時間とともに香りが多層的になることで、ワインを飲んだときの印象や余韻が豊かになり、味の奥行きを感じることができます。
イギリスのブドウ栽培面積の83%を占めている南部で育つブドウはまさにこれらの条件を満たしているブドウが育ちます。
この地域は冷涼な気候。そのためブドウがゆっくり成熟し光合成も緩やかに行われるため、りんご酸の消費が急速に進むことがないため、酸度が高く保たれる傾向にあります。また、ブドウ内で香り成分(例: テルペン類やエステル類)が分解されずに保持されるため、柑橘系や青リンゴのようなフレッシュな香りが残るのも特徴。(逆に暑い気候では糖度が急激に上昇し、熟した果実(トロピカルフルーツ)のような重い香りが強調されることがある。)
またこの地域には、シャンパーニュ地方と似た白亜質土壌(石灰質土壌)が広がっています。この土壌は水はけが良いため、根は地下へ地下へと水分を求めて伸びていきます。(排水性が良いと、水分が重力によって下層に移動するので、それに追随して深く成長するとも言える)その結果、地下に溜まったミネラル資源がブドウに吸収されます。このミネラル感はスパークリングワインに複雑さと深みを加える要素となります。
それはいったいどんなブドウ?というと、「シャルドネ」「ピノ・ノワール」そして「ピノ・ムニエ」。
これらのブドウは高酸度と冷涼気候由来のフレッシュさを特徴としています。白亜質土壌のおかげでミネラル感も加わり、それぞれの品種が持つ個性を引き立てます。他地域(特にシャンパーニュ地方)と比べると、より軽快でフレッシュなスタイルが多く見られます。
こうしたブドウを使い、瓶内二次発酵方式で丁寧に造られるイギリス産スパークリングワインは、きめ細かい泡立ちと複雑な風味を持ち、国際的なコンクールで数々の受賞歴があるほど。
地球温暖化が進む中、シャンパーニュ地方が徐々に暑くなる可能性もあり、将来的にはスパークリングワインの生産の中心が北に移動する可能性もあるとかないとか。もしかしたらイギリスが次世代の高級スパークリングワインの中心地になる日が来るのかもしれません。
その時には、「シャンパン」からブドウが作られている「ケント州」、「サセックス州」にちなんだ名前のスパークリングワインが生まれてるのかも?