角打ちでミードを提供してくださっている酒屋さんを紹介する企画『角打ちで広がるミードの輪』。
2回目は、東京・経堂の『つきや酒店』をご紹介します。「熱」という言葉が一番似合う人、それが店主・柱知香良さん。ミードを紹介してくださるインスタグラムの一つ一つの言葉に込められた温もりに触れるたび、思わず画面に微笑みかけてしまう。
たった半年のお付き合いなのに、まるで昔からの知り合いのような親しみを感じてしまうのは、きっと知香良さんの投稿に溢れる誠実さと情熱のおかげなのでしょう。
@tsukiya_ankh
そんなつきや酒店さんのインスタグラムの紹介文には下記が書かれています。
「農業を考え、発酵の面白さを知り、醸造の奥深さを探求する。生命と触れ合い口福なひとときをお届けする酒屋」
いったいどんな思いが隠れているのか、知香良さんの思いに迫りました。
1. History - これまでの歩み
知香良さんは、つきや酒店の4代目。初代と2代目の時代は、お店の形態も名前も違ったそう。もともとは、油やティッシュペーパー、米まで扱う「よろずや」として地域に根付き、2代目の時からお酒も取り扱うように。
アンク
お店の名前は「アンク(Ankh)」。遊戯王カードの死者蘇生でも使われている古代エジプトの生命を象徴する文字から名付けられました。
「生命が集まる場所にしたい」、そんな思いが込められています。食べ物もお酒もそして人も全て命。あらゆる生命が集まるような生命広場にしよう!そう先代は決意しました。
つきや酒店という名前に変わったのは、3代目お父さんの代から。きてくれた人に「ツキ(幸運)がありますように」という思いが込められています。なんとロマンチックでお客さん想いな名前なのでしょうか。
そんな知香良さんがANTELOPEのミードを知ったのは実は4年前。紆余曲折があり、やっとご縁が繋がったのが2024年の5月のこと。知香良さんが滋賀県に来る機会があり、工場に来てくださったことからご縁が始まっています。
「日本の素晴らしい農家さんがつくる作物の魅力を伝えたい」
そんな思いで、生産者さんからのバトンを受け取ったANTELOPEから、知香良さんは熱い思いで受け取り、日々ミードの魅力を伝えてくださっています。
2. Values - 知香良さんの思い
「誰が、どこで、何を、どんな思いでつくっているか。人が食べるもの、飲むものは安心して口に入れてほしい」
トレーサビリティ(生産履歴)の大切さを、知香良さんはそう語ります。きっかけはご家族の体調から。添加物はやめよう、自然なものを使おう、というのは柱家の生活の基盤になっていました。
そんな中、同じくらいの時期にお父さんは「仁井田本家」が、長年原料米を栽培してきた耕作者たちへの感謝を込めて、田村町にちなんで名付けた「田村」という日本酒との出会いを通じて、お酒に対する姿勢が変化していきました。
「農業を、生産者さん、そしてお酒を作ってる人たちをちゃんと見よう」
この想いは、知香良さんにも自然と引き継がれていました。知香良さんが20歳になり、「仁井田本家」に行った時「百年貴醸酒」を飲んだ時にそのことに気づきます。お父さんは「田村」を飲んだときに稲妻が走ったそうですが、「百年貴醸酒」を燗で飲んだ時に知香良さんにも稲妻が走ったそうなんです。
味わいはもちろんですが、何より感動したのはこのお酒のストーリー。100年後に完成させるお酒、と言われており水の代わりに日本酒を継ぎ足し継ぎ足しするお酒。東日本大震災をきっかけに作られたお酒ですが、100年間続くということにロマンを覚えた知香良さんは、自分もお酒の背後にある背景に魅力を感じることに気づきます。
3. Experience - つきや酒店での体験
「ではミードを飲みましょうか!」
お話がひとつ区切りを迎えた時、号令がかかりました。
つきや酒店さんでの角打ちはもちろん冷えた状態のミードも楽しめますが、この冬の1番のおすすめは「燗ミード」。知香良さんはおそらく、日本で一番燗ミードに詳しい人です。
「温度で味わいは大きく変わるんです」そう語る知香良さんは、丁寧にミードを温めていきます。60度くらいにあっためるのが知香良さん流。
この日の気づきは、炭酸が入っているミードも温めても新しいおいしさがあるということ。
一番感動したのは「The Last Supper」。おすすめの温度は62℃。
乳酸は温めるとあまりいい匂いがしない(牛乳を温めた時に、タンパク質が変成して、いわゆる「焦げ臭」がすると言われている)イメージがあり、あまり温めることに前向きではなかったそう。
でも開けてしばらく経ってしまったので温めてみたところ、いい意味で期待を裏切る結果に。
まるでホットレモネードを飲んでいるような心地よい酸のニュアンスが香りにも、口の中にも広がりました。寝る前のお酒として、この冬重宝します。
その他のミードのご紹介。
- This is it
60℃くらい。バターポップコーン、トーストをあっためたような匂い。
好き嫌いはありそうな匂いだけど、パンとのペアリングが良さそう。甘さはどこかへ飛んでいき、香りを楽しめる。
- What Churchill Said
60℃くらい。ジンはもともと温める文化もあったということと、体に良さそうという直感から温めてみたそう。まるで薬草を飲んでいるような、ボタニカル感を感じます。ジントニックで感じるようなジンの香りと似ている。
- Join us - day2.
60℃前後。胡椒は温度が高いと風味が際立つと、柱さん。
お肉料理と一緒にずっと食べてたいくらい胡椒の風味が口いっぱいに広がる。お肉料理とのペアリングの正解!
- Le Dessin’24
30-60℃。30度台くらいだと金木犀の香りが、60度くらいになると蜜柑の香りがしっかり出てくる。
まるで子供の頃によく飲んだ、どこか懐かしい味がする蜜柑ジュースのような味わい。
ミードを温める際に入れる徳利やチロリで一番お手軽なのは、剣菱の容器なんだとか。レンジで温められるのと、ガラスは中のお酒の風味をそんなに変えないからだそう。
「均一に熱が伝わるので、他のワンカップよりも断然美味しくなります。」と知香良さん。ぜひ試してみてください。
4. Future Plan - 今後について
2代目から受け継いだ家の梁(ハリ)を机の素材に再利用した角打ちスペースは、知香良さんの代からスタート。生命が集まる場所「アンク」の精神を引き継ぎながら、新しい挑戦が続いています。
そんな知香良さんの夢は、角打ちスペースに「お酒の教室」をつくること。元・保健体育の教員という経験を持つ知香良さんは、給食の配膳トレーにお酒を載せ、ホワイトボードで解説する空間を思い描いているんだとか(黒板だとチョークの粉がお酒に入るので)。
まだまだ話せるけどこれ以上話すと1ヶ月はかかる、と照れくさそうな笑顔で話す知香良さん。その夢の絵には色がついているそう。燗の説明の上手さから、私にも色がついたイメージが浮かびました。
色がついている夢は実現する。つきや酒店の今後の展開に目が離せません!
5. Editor's Note - 取材を終えて
店に到着するやいなや、「なんか音楽かけましょうか♪なにがいいですか?」との質問が。音楽が大好きな私はその質問がとても嬉しく、好きな音楽についてお話ししました。
後から聞くと、私のことを事前に調べて音楽に興味がある人だということを知ってくれていたそう。「常に相手が嬉しい気持ちになるにはどうしたら良いかを考えて生きてこられたんだな」「きっとお客さんも周りの人たちも、こんな知香良さんの温かさに惹かれてるんだろうな」と想像し、自然と笑顔になります。
取材を通じて印象に残ったのは、知香良さんの「お酒の背景にある物語を、自分の言葉で伝える」という情熱でした。お酒の味わいはもちろん、その背景にある生産者の思いや歴史まで、すべてを一旦自分で調べたり感じたりしてから、知香良さんの言葉で伝える。
相性抜群なふたりが最後まで鎬を削り高め合うようなクライマックス感のある味わい
手に汗握るドラマや映画のラストシーンと共に飲みたくなるようなミードが完成しました。
これは知香良さんが、紅茶のミード「蜂蜜茶醸酒」を飲むシーンについて書いてくださった表現です。谷澤の書く文章には、いつも色がついた情景が広がるとお褒めの言葉をいただきましたが、知香良さんの文章が私は好きです。いったいどんな臨場感のあるミードなんだろう!緊張しつつも口の中に入れてみたい、そう思わされます。
■Store Information
〈つきや酒店〉
- 住所: 〒156-0052 東京都世田谷区経堂3丁目3−19
(Google Map: https://maps.app.goo.gl/PnBgSU2iuu2T4sVF6) - アクセス:小田急線経堂駅から徒歩5分
- 営業時間: 10:00〜21:00(角打ち15時〜21時 土曜日13時〜)
- 定休日:日曜日・月曜日・祝日
※当日の営業時間やイベント情報は、Instagramでご確認ください
これからも少しずつ、他の酒屋さんも紹介していきます。
次はどのお店を紹介しようかな🚶