おはようございます!先週は番外編として、「ポー | 宮本さんが育てたブラッドオレンジのミード」の紹介記事を書き、オーストラリアからは少し離れておりました。
今週はいよいよオーストラリアの最終回!同じオーストラリア産のワインについて、なぜ価格差が生まれるのか?の後編に進みます。(前編はこちら「ワインの価格差とは?前編」)
今回比較したのは、「ピーツ・ピュア」のシャルドネ(1,188円)と「ヤンガラ・エステート・ヴィンヤード」のブラン(4,400円)。約3.7倍の価格差がなぜ生まれるのか、その要因を深掘りしていきたいと思います。同じオーストラリア産白ワインでも、これだけの価格差はどこから来るのでしょうか?
おさらい:前回の結論
価格差が発生するということは、ワインに関する要素が異なるということ。まずはその要素を洗い出してみました。
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1. 使用するブドウの種類数:1種類 vs 5種類
2. ブドウの品種:シャルドネ vs グルナッシュ・ブラン、ルーサンヌ、ピクプール、クレレット、ブールブーラン
3. ワイナリー:ピーツピュア vs ヤンガラ・エステート・ヴィンヤード
4. 購入した場所:コンビニ vs エノテカ
5. ヴィンテージ:2024 vs 2021
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1、2について前回は触れ、
・複数種類のブドウを使っていること
・単一の畑で育てていること
これら2つの要因が価格差を生んでいる、と結論づけました。気になる方はぜひ前編から読んでみてください。
今日は以下の3つの要素について詳しく見ていきます:
1. ワイナリーの哲学
2. 流通経路の違い
3. ヴィンテージの価値
ワイナリーの哲学
「販売価格をより安くすることで、ワインの間口を広げ、より多くの人に飲んでもらいたい」
「自分たちのこだわりをふんだんに詰め込んで、極上の1本をワインファンに届けたい」
など、ワイナリーによって大事にしていることはそれぞれ異なります。価格差を生んでいる理由として、「大事にしている価値観に違いがあるのでは?」と考え、2つのワイナリーについて掘り下げていきます。
■ラインナップについて
価格差はこの1本のワインに限った話かもしれない、という可能性もあるのでまずは両者のワインのラインナップの価格帯を確認。
◯ピーツ・ピュア
シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリージョ、ピノ・ノワール、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨンなど、幅広い品種を揃えていますが、いずれも1本あたり1,270円~1,430円(税込)程度と、比較的お手頃な価格帯で展開されています。
◯ヤンガラ・エステート・ヴィンヤード
スタンダードな「エステート・コレクション」でも5,500円(税込)前後、上位レンジでは1万円~2万円台後半と、比較的高価格帯のラインナップとなっています。
つまり1本のワインに限った話ではなく、そもそもの価格帯に違いがあることがわかりました。
それでは、両者はどんな価値を届けるために、どんなことを大切にワインを作っているのでしょうか?
■ワイナリーが大切にしていること
◯ピーツ・ピュア
Pure is our mantra – harmony with the land we harvest and the nature around us. Delicious wine you can enjoy guilt free. - 公式HPより
社名にもある「ピュア(純粋)」を理念とし、土地や自然との調和を大切にし、罪悪感なく楽しめる美味しいワインを届けること、を大切にするピーツ・ピュア。ちなみに「ピーツ」は創業者の2人の名前が両方ともピーターだったことに由来しているそう。大地を愛し、畑仕事には手を抜かないというピュアな信念のもと、サステナブルなワイン造りを徹底しています。
残念ながら、公式HPやインタビューなどが見当たらなかったのですが、エノテカHPの紹介によると
生産者曰く、「平日のディナーやビーチでのピクニック、あるいは自宅でのリラックスタイムなどに、友人や家族と共有するためにデザインされたワイン」。
との記載が。
このことから、日常生活において気軽に親しい人たちと楽しんでもらえるように、ということをワイナリーの軸の1つとして取り組んでいることが伺えます。Instagramの投稿からも親しい人たちと楽しく食卓を囲んでいる様子が伺え、納得です。
◯ヤンガラ・エステート・ヴィンヤード
The Yangarra philosophy is to produce wines from our single-vineyard estate, that reflect an authentic sense of place. - 公式HPより
一方でヤンガラ・エステート・ヴィンヤードが大切にしているのは単一畑のエステートから、その土地の本物の感覚を反映したワインを造ることです。
1946年に植樹されたとされるグルナッシュをはじめ、南ローヌ由来の多様な品種を栽培し、土地の個性を最大限に活かしたワイン造りを実践。「ワインは畑で決まる」という哲学のもと、毎年の気候や土壌の違いをワインに映し出すことを大切にしています。
こうして見てみると、ピーツ・ピュアは「日常に寄り添うワイン」を、ヤンガラは「土地の個性を極めた1本」をそれぞれ目指していることが伝わってきます。どちらも“自分たちにしかつくれない価値”を追求しているからこそ、ワインのスタイルも価格帯も大きく異なっているのだと感じます。
価値観の違いは、流通経路にも
こうした価値観の違いから、国境を超えてもワインの流通経路にも表れているのではないでしょうか。
ピーツ・ピュアは「誰もが気軽に手に取れるワイン」を目指しているため、コンビニやスーパーといった日常的なシーンに寄り添う販売チャネルにも存在する。また大量生産できるということから、たくさんのチャネルで販売できるというのも強みとしてありそうです。
一方、ヤンガラ・エステート・ヴィンヤードは自分たちの畑へのこだわりを丁寧に伝えたい、という想いがおそらくあるのではないでしょうか?日本ではエノテカが正規代理店となっており、コンビニやスーパーなどでは見かけることがほとんどないようです。
ヴィンテージの価値
最後に、今回の2つのワインには「2024年 vs 2021年」というヴィンテージの違いがあります。この3年の差は、どのような価値の違いをもたらしているのでしょうか?
■時間がもたらす価値
ワインは時間の経過とともに風味が変化し、熟成によって複雑さや深みが増すものもあります。ただし、すべてのワインが長期熟成に向いているわけではなく、若いうちに楽しむことを想定してつくられているワインも少なくないです。古いからといって必ずしも価値が上がるわけではなく、ピークを過ぎると品質も価格も下がることが一般的です。
■ヴィンテージの良し悪し
忘れてはならないのは、年によるブドウの出来栄えの違いです。
オーストラリアの2021年は、豊作かつ高品質。冷涼で適度な降雨に恵まれ病害も少ない理想的な生育条件となり、多くのワイン産地で高品質かつ豊作のブドウが収穫されました。
一方、2024年は少量だが高品質。収穫量は過去10年平均を下回ったものの、生育期の好天や乾燥した気候によって品質面では高い評価を受けている年。
そう聞くと「少量だけど高品質」な2024年の方が高くなりそうな気がします。実際には、今回のワインはどちらも価格に大きな変動は、調べた限りでは見受けられませんでした。良いヴィンテージだからといって価格が上がることはなく、安定した価格帯で提供されています。
■ワインにおけるヴィンテージの価値とは?
ワインにおけるヴィンテージの価値は、単純に「古いほど価値が上がる」わけではありません。その年の気候やブドウの出来、ワインの熟成ポテンシャル、そして市場の評価によって決まります。
高級ワインやコレクターズアイテムでは、出来の良い年のものが高く評価される傾向があります。例えば、ボルドーやブルゴーニュのトップワイナリーがつくるワイン、シャンパーニュの高級キュヴェなど。ただ一般的なワインや早飲みタイプのワインでは、ヴィンテージによる価格差はほとんど生じないようです。古いワインが必ずしも値上がりするわけではなく、ピークを過ぎたワインはむしろ価値が下がることもあるほどだそう。
■まとめ:価格差はワイナリーの価値観がもたらす結果に過ぎない
今回の比較を通じて見えてきたのは、単なる「高い・安い」という価格差ではなく、ワイナリーの哲学や目指す方向性の違いが、あらゆる面に表れているということです。
ピーツ・ピュアが目指す「日常に寄り添う、気軽に楽しめるワイン」は、新鮮さと親しみやすさを大切にし、多くの人が手に取れる価格帯になるような生産スタイル、そして流通経路を選んでいます。一方、ヤンガラ・エステート・ヴィンヤードが追求する「土地の個性を極めた特別な1本」は、単一畑で育てた複数品種のブレンド、限定的な生産量と流通など、あらゆる要素が「特別さ」を高める方向に整えられているように映ります。
どちらが良いというわけではなく、それぞれが異なる価値観に基づいて、異なるワイン体験を提供しているのです。私たち消費者は、その日の気分や場面、予算に合わせて選ぶことができる—これこそが、ワインの多様性の素晴らしさだな、と改めて思いました🌼
ぜひ皆さんもワインを購入したら、なぜこの価格なんだろう?って思いながら、ワイナリーの思いを覗きにHPやインスタグラムを見てみると、よりワインライフが楽しくなるかも?🍷さて来週は、オーストリアのワイン事情に歩みを進めます。先日たまたま遭遇したオーストリアのワイナリー・ロイマーさんのワイン会で出会ったオレンジワインを飲みながら、学びを深めていきたいと思います。Bis nächste Woche!