ANTELOPEを立ち上げてから5年。 3年前ほどから自分たちの足を使って色んな農家さんと繋がってきました。
クラフトビールの世界にいるとコスト重視、特に労働的なコスト重視な世界観も強いので同じ値段なら青果よりピューレ。値段が安ければ国産より外国産。
全然そうじゃないブルワリーがあるのも知ってるけど、一般論としてそういう世界を見てきました。
だから立ち上げ当初はピューレを使ってたし、青果も八百屋さんからそのとき入ってくる大口で安いものという観点で素材を見てました。
でも、いまはよっぽどのことがない限りは国産の繋がりがある農家さんのものだけを使っています。スパイスやバニラとかはまだ無理だけど、できる範囲でも自分たちが語れるものを使っています。
ただ、その農家さんたちは大抵が「有機栽培」だったり、「自然栽培」を行っている人達です。 僕達自身も上に書いてたようにナチュラルな思想の持ち主ではなかったし、原価意識も全然まだあります。 でも気づいたら、自分たちが繋がりたい、使いたいと思える農家さんがそういう人達で溢れていたという話なのですが。
〈有機栽培だから良い〉 〈手間暇かけてるから良い〉
お客さまに説明しているときに、全く持ってそんなラフな説明はしてないんだけど、じゃあどうしてそれを使ってるのか?と聞かれたときに、まだ明確な答えがない状態でした。考え続けた結果、少しじつ分かってきたようなことがありました。自明だったような気もするのですが、改めて。
【酵母に与える影響】
まず一つは醸造的に安心できる、という点。
僕達は発酵でご飯を食べさせてもらっているので、基本的には素材を「発酵」に通します。 どうしてかというと、ミードというのは発酵前の液体づくりにテクニックの要素がほぼないからです。
ビールや日本酒のように糖化の工程があれば、酵素の働かせ方を変えたり、米の磨き方を変えたり、色んなアプローチがあります。 だから発酵の技術が同じでも、味わいのニュアンスを大きく変えることができます。
また、ビールでも発酵終了後にホップやその他フルーツなどを漬け込む技術があって、ドライホップと呼ばれます。香りを最大限取れるような技術でこれも奥が深いのですが、大まかなレシピさえ決まっていれば、特に難しい技術ではありません。
僕達は蜂蜜を水に混ぜるだけ。 ここのテクニックはどんなに語っても一つや二つ。だからこそ僕達は発酵で技術を磨き、戦うしかないのです。 だからこそ、発酵後に素材を浸すだけのテクニックで戦っても、僕達にしか作れないミードは一生作れないと考えています。
だから、酵母を入れる前、酵母が活動中に果実などの素材を使うことがほとんどです。
ようやく本題ですが、このときに「有機栽培」の農家さんのほうが安心できます。 無論、農薬がだめとは一言も言ってません。 僕達はフルーツの使用量が非常に多く、ビールでは問題が起きないよう量でも、ミードなら影響がでる場合があります。ゴシゴシと念入りに果実を洗っても酵母に影響がでるときがあって、それ以来有機栽培の農家さんとの取引に切り替え始めました。
【ずっと一緒にお付き合いしたいかどうか】
もう一つは、長い目線でお取引をしたいかと僕達自身が思えるかどうか。 Youtubeで出てくるような起業家社長たちに「また甘いこと言ってる」と言われそうですが、しょうがないのです。
モノを作るときには、どうしても気持ちの乗り方があります。
プロなら、って気持ちもすごくよく分かる。けど、事実そうで。 じゃあなんで有機栽培の農家さんたちと長く繋がれるのかと思うのかというと、
「長い未来を考えての有機栽培」をしてるから。
これに尽きました。 どの農家さんもそれぞれの想いがあるはずですが、地球のことや未来の世代のこと、その土地や土地に根ざす人のことまで考えて自然と向き合う。その姿勢が取れる農家さんは仮にそれがビジネス上の姿勢だとしても感服せざるを得ません。
それが別に経済的に正しいとか、環境学的に実は地球のためじゃないとか、そんな議論がしたいんじゃなくて。そういう気持ちを持って、行動している人と一緒にやりたいなと、思って仕方がないという話でした。
もちろん常に色んなバランスを取りながらにはなると思うのですが、一つ見えてきた答えはこういうところなのかなと。 人と人、こんな時代だからこそリアルを大切にしたいなって。