膳所にある〈加藤酒店〉は、
ANTELOPEにとって最初期からの居場所。
まだミードという言葉がほとんど知られていなかった頃。
定番が数本しかなかった頃。
イベントも、実績も、今ほど整っていなかった頃。
それでも加藤さんは、
ANTELOPEのミードを棚に置き続けてくれました。
すでに愛で溢れていますが、ここからが本番。
「これは、売らなあかんやつやと思った」
加藤さんは言う。
「売れるか売れへんかは分からんかったけど、
これだけ美味いなら、俺は売ったげなあかんなって思った」
それは商売としての確信というより、直感や人生観に近かったといいます。
アメリカで学んでいたことも知っている。
草津のファーマーズマーケットで、
創業当初の空気を見ていた。
試行錯誤しながら、
それでも作り続けている姿を知っている。
だから自然と、
「思い入れがある」という感覚が生まれたと加藤さん。
5年前のボトルも、まだ棚の奥にある
加藤酒店の棚には、
今ではもう手に入らない、
ANTELOPE初期のボトルも残っている。
生姜を使ったもの。
ピーナッツが入ったブラゴット。
初代ジンジャーキャット。
「時間が経っても、意外と美味しいんですよ」
すぐに売れなくてもいい。
説明が必要でもいい。
“ワインじゃない”ことを一から話すのも、面白いと熱が入る。
「ワインはぶどうでしょ。
ミードは蜂蜜。
でも歴史はめちゃくちゃ古いんですよ、って」
加藤さんにとって、
ミードは“扱いにくいお酒”ではなく、
語りがいのあるお酒だと言ってくれます。
それでも僕達には語ってくれようとしてくれる、
そういう愛で溢れています。
変わり続けるのを、ずっと見てきた
泡盛の樽で熟成させたカラーシフト。
初めて無加水で仕込んだAPシリーズ。
色んな樽熟成。
これから挑戦する国産蜂蜜への切り替え。
加藤さんは、
ANTELOPEの“変わり続ける過程”を
ずっと横で見てきてくれました。
「谷澤くん、ほんまに作るのが好きやなと思う」
暇さえあれば論文を読み、
次の仕込みを考え、
また違うことをやろうとする。
その落ち着かなさすら、
加藤さんは面白がってくれているといいます。
ないちゃう。
愛とは、長い目で付き合うこと
加藤さんにとっての愛は、
熱い言葉でも、
派手な応援でもないと。
・すぐに結果が出なくてもやり続ける
・説明が必要でも投げ出さない
・変わっても、また付き合う
それだけのことと言ってくれます。
でもそれは、
いちばん難しいことも本当に知っています。
作っている僕達が感じるくらいだから、酒屋さんからしたらもっと難しいのを本当に知っています。
「滋賀以外でも、
これだけ置いてくれる店は少ないと思う」
ゆうすけの言葉に、
加藤さんは照れくさそうに笑ってくれます。
「面白いから、やめへんだけ」
最後に加藤さんは、
こんなふうに言った。
「結局、面白いから続いてるだけやと思う」
売れるからでも、
流行っているからでもない。
面白いと思える人がいて、
面白いと思える酒があって、
それを置き続けたいと思える。
その愛ある積み重ねが、
加藤さんとANTELOPEをつないでくれました。
おわりに
加藤さんの愛は、
守ることでも導くことでもなく、「置き続けること」と。
膳所の棚の一角には、
今日もANTELOPEのミードが並んでいる。
京都駅からならドアドアで30分もかからない。
加藤さんの人柄に包まれるだけで一日が明るくなる気がします。
膳所駅には面白いところもたくさんあります。
京都から滋賀に来る人も、滋賀から京都や大阪へ向かう人も、
ぜひ一度ふらっと。