前略、ソムリエな君 - マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア

イタリアワインの旅は今週も続きます🇮🇹ワインの骨格となるぶどうの品種が200種類以上あるイタリア。まだまだ知らないことだらけのイタリアワイン。これからも、その魅力を掘り下げていきたいと思います。

さて先日L'Arc〜en〜Cielのライブ遠征で東京へ。その合間に行ったのは、周年祭にマグナムボトルを振る舞ってくださる「202 WINE&GROCERY」さん。店主の山下さんに、おすすめのイタリアワインを提案していただきました。

私からのリクエストはシンプルに3つ。
1. 4,000円以下くらい
2. イタリア産ブドウを使用
3. 食事と合わせやすいワイン

「それなら、今これがイチオシです!」と山下さんが手に取ったのは、「ヴァルトッラ ビアンコ [2022] クローチ Croci Valtolla Bi」。このワインの主役は、「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」という、ぶどう品種。今まで学んできたぶどう品種の中で一番長い名前で、これが自然に言えるようになったら少しワイン通になった気分になれそう🍇

「マルヴァジア」は総称で、イタリアだけでも約20種類もの品種があると言われています。ブドウから黒ブドウまで、世界各地で栽培される人気品種。世界三大酒精強化ワインの一つとも言われるポルトガルの「マデイラ」にも、使用可能なブドウ品種の中にマルヴァジアの一種が含まれているそう。

その中でも今回の「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」は、イタリアのラツィオ州(州都はローマ)で特に多く栽培されていながら、単独で使用されるよりも他の品種とブレンドされることが多いのが特徴です。

ここで今週も私の中で、「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」に関して2つの謎が浮かび上がってきました。

  1. 「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」はラツィオ州では多く栽培されているようですが、あまり聞いたことがないのはなぜなんだろう?

  2. なぜブレンドされることが多いのか?

これらの謎を解き明かすため、調査を進めてみました🔍

1. 「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」というブドウの名前をあまり聞いたことがないのはなぜ?

そもそも自分のワインの知識が足りてない。そう言ってしまえば、それで終わりなのですが探究欲に従い、そうなってしまう理由の仮説を立ててみました。

<ブドウの生産者視点>
①そもそもの生産量が実は少ないから?
ラツィオ州では多いとの記述がありましたが、それは本当なんだろうか?2015年のEurostat(ヨーロッパの統計局)のデータによると、イタリアでの栽培面積は、約6,983ヘクタール。この年のデータによると、イタリアでのマルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディアは第9位(43位中)。やはり特筆して生産量が少ないブドウ品種とはいえなさそうです。


<作り手視点>
②発酵させるのが難しいから?
これに関しては、確固たるソースを見つけられませんでした。しかし発酵させるのが難しいとはどんなことなのかを調べてみました。

例えばハンガリーの「フルミント」という種類のブドウは非常に高い糖度を持つため、発酵に数年を要することがあるようです。(高濃度の糖は、酵母細胞内で脱水状態となることで代謝活動が低下する)一方、「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」は非常に高い糖度を持つという特徴はないので、発酵に数年もかかることはなさそうです。

またぶどうの品種の特性というよりも、発酵の難しさの要因は気候条件や、栄養要因に左右されるよう。例えば極端に気温が高かったり低かったり。または窒素が不足していたりビタミン、ミネラル、アミノ酸の不足していたり、などが挙げられます。

よってもし難しい年があったとしたら、マルヴァジアカンディアが特別発酵に向いてないのではなく、気候や醸造のテクニックによるもので、ブドウそのものに問題があるとは言えないようです。

<売り手・飲み手視点>
③味わいにクセがおすすめしにくいから?

これはどうか?海外のイタリアワインを取り扱うオンラインショップ(WINETLY, tastepiacensa)ではそれぞれこんな記述がありました。

“Its distinct aroma and flavor profile make it a unique and sought-after variety in the wine industry.”
(その際立った香りと味わいの特徴により、ワイン業界で独特かつ需要の高い品種となっています。)

“A sweet, warm, soft sip is balanced by the flavor and freshness typical of the calcareous terroir.”
(甘く、温かみがあり、柔らかな口当たりは、石灰質のテロワールに特有の風味とフレッシュさによってバランスが取れています。)

読む限りでは、味わいに何か好き嫌いが生まれそうな記述は見当たりません。また何よりワインのプロである山下さんが勧めてくれたということは何か味わいに要因があるとは思えません。

ということで考えられる要因としては、
日本での流通量がまだ十分ではなく、ワインの勉強を始めたくらいの私のような層の人にはリーチできていない
というのが仮説として一番正しそう、という結論です。

じゃあなんで日本には輸入されていないのか?この点については、また別の機会に探ってみます🐝

2. なぜブレンドでの使用が好まれるのか?

続いてなぜ「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」はブレンドされることが多いのか?考えられる仮説として単独の味わいだと甘さや酸味などの味わいが十分ではないから?がまず思いつき、再度調べてみました。

イタリアのワイン生産協同組合のHPの説明によると、イタリアで登録されているマルヴァジア品種のうち、「コッリ・ピアチェンティーニDOC(※1)」のマルヴァジアDOCワインの生産に認められているのは「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」のみだそうです。

また「フラスカーティ・スペリオーレDOCG(※2)」でもマルヴァジアを主体とした白ワインで、「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」及び「マルヴァジア・ラツィオ」を最低70%使用することが条件になっています。

香りの面では、白い花や新鮮な柑橘類の繊細な香り、青リンゴや黄リンゴの香り、草の香りを持ち、軽いボディと心地よい酸味が特徴だそう。聞いているだけで、なんだかおいしそうに思えます。

DOC、DOCGワインへの使用を認められていることから考えても、「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」単体で魅力がないとはいえなさそうです。

それではなぜブレンドするのか?上記を踏まえると、「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」をブレンドすることで、他の品種の味わいがより良くなるのではないでしょうか?

答えはYes。例えば、同じくイタリア原産の重要な白ワイン用ブドウ品種「トレッビアーノ」とブレンドすると、トレッビアーノの酸味を和らげる効果があるんだとか。アロマや質感を与える効果もあると言われており、DOCワインへの使用を認められていることも、積極的にブレンドすることは自然に感じます。

主役として活躍できるブドウ品種でありながら、その優秀さゆえに脇役としても大活躍してしまうマルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」。クラスにいたら間違いなく人気者。

そんな「マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」が100%使用されているワインは絶対においしいはず。ここまで知った後で山下さんとまたお話ししたい🍊

それでは「ヴァルトッラ ビアンコ [2022] クローチ Croci Valtolla Bi」をテイスティングしていきます!

(※1)コッリ・ピアチェンティーニは、イタリア中央部エミリア=ロマーニャ州にある重要なワイン生産地域。
(※2)1966年に設立されたフラスカーティDOCの一部でした12011年には一部がDOCGとして独立しています。


■今週のテイスティングレポート
ヴァルトッラ ビアンコ [2022] | クローチ Croci Valtolla Bi


このワインを造っているクローチ(Croci)は、イタリア中部のエミリア・ロマーニャ州に位置していて、1935年に始まった歴史あるワイナリーです。最初は酪農などの兼業農家だったそうですが、1980年代からワイン造りを本格的に始めて、今では創業者の孫、マッシミリアーノと弟のジョゼッペが受け継いでいます。

クローチの伝統的な製法は、1930年代から受け継がれる独自のアプローチ。ブドウは皮ごと自然の酵母で発酵させるんですが、土壌の特性により酵母の力が弱く、発酵がゆっくりと進むんだとか。冬の寒さで一度発酵が止まり、春の暖かさで再び発酵が始まるという、自然のリズムに寄り添うような世界に心惹かれます。

年間2〜3万本という、決して多くない生産量。でも、その分一本一本に想いを込めているような気がして、ワインへの期待が高まります。


===

・外観:靄がかかったような優しい濁り、そしてこれぞオレンジワインという美しい色合い。液体はサラッとしていますが、オリがたくさん浮かんでいます。

(やざわっちTips:ワインの粘り気は、グラスをくるっと回した時の「線」で表現できる。次回から私も使ってみます。)


・香り:最初に感じたのは...インクのような香り。後で教えてもらったのですが、これを「酢酸エチル香」というそう。マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア」の香りの特徴にもあった、青リンゴのような香りもしっかり感じ取れました。他には石灰っぽさや、なんとなく磯の香りも。


・味わい:口に含むと、優しくスーッと広がっていきます。すっきりとした飲み心地で、意外にも緑茶のような心地よい渋みも。でも苦みはほとんどないので、ワインが苦手な方にもおすすめしやすそう。最後に感じる控えめな葡萄の甘みが、とっても魅力的でした。


・合わせてみたいお料理:豚の角煮のような味の濃いお肉料理はもちろん、白身魚のカルパッチョみたいなさっぱりしたものにも合いそう。


・価格:4,180円(税込)/750ml

 

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