前略、ソムリエな君 - アルゼンチン マルベック

おはようございます🍇長いアメリカ編を終えて、今回はアルゼンチン。(今気づきましたが、教本は50音で地域を紹介してくれているようです)

アルゼンチンのワイン事情について調べていて、私の目を引いたのが「マルベック」という品種です。他のブドウの栽培面積が減少する中でいまだ増加を続け、なんと世界のマルベック栽培面積の約90%をアルゼンチンが占めているんです。

もともとは南西フランスのカオールが原産地。1853年4月17日、アルゼンチンのメンドーサに初めて苗が植えられ、それをきっかけに今やアルゼンチンワインの顔とも言える重要な品種に成長しました。その日を記念して、アルゼンチンでは4月17日を「マルベックデー」と呼ぶほどの愛着があるんです。

しかしマルベックについて調べ始めた私は、すぐに大きな壁にぶつかりました。
それは教科書でよく目にするこの説明文:

「マルベックの皮は非常に濃い紫~黒色です。実が小粒で果皮が厚いため、タンニンが豊富で非常に濃い色合いのワインに仕上がります。」

この文章を読んだ私は、この説明の論理性がどうしても理解できませんでした。

1. なぜ皮は濃い紫~黒色になるの?
2. そもそもタンニンってなんだっけ?
3. なぜ実が小粒で果皮が厚いと、なぜタンニンが豊富で濃い色合いのワインになるの?

などなど、「?」が頭を駆け巡ります。「わかったふりをしない」を2025年のモットーに掲げる中山は、この謎を1つ1つ解明することにしました。

1. なぜ皮は濃い紫~黒色になるの?

この謎を解く鍵は、①遺伝的な特性、②環境への適応にあります。

①遺伝的な特性
マルベックに限らず、ブドウの実は最初、黄緑色をしています。それが成熟するにつれて、徐々に紫色から黒色へと変化していきます。特にマルベックの場合、この色の変化が顕著なんです。

その理由は、「アントシアニン」という色素の働き。身近なところでは、ナスやブルーベリーの紫色もこのアントシアニンの色素によるものです。このアントシアニンは、私たちが日焼け止めを塗るように強い日差しから身を守るための成分なんです。マルベックは、他の品種と比べてもアントシアニンを特に多く蓄積する特徴を持っています。

またマルベックが小粒であることも、色素が濃縮されやすくなる要因といえます。

②環境への適応
例えばアルゼンチンのメンドーサ州(マルベックの生産量が最も多い地域で、標高約1500メートルの高地)のような高地では、強い紫外線にさらされます。その結果、より多くのアントシアニンがつくられます。

2018年に実施された研究では、こんな面白い結果が出ています。
・低地:アントシアニン量が少ない
・高地:アントシアニン量が多い

つまり高度が高くなるほど、より多くの日焼け止め(アントシアニン)がつくられると言えそうです。

また他にもマルベックが育ちやすい環境を具体的に見てみましょう:

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■気温の条件
・理想的な年平均気温:15~18℃
・大きな昼夜の温度差が必要
→ 結果:温度差によって色素がより濃縮

■日光の条件
・たっぷりの日光が必要
→ 結果:紫外線により色素生成が促進

■湿度の条件
・乾燥した気候が好ましい
→ 結果:果皮の色素がより濃縮
===

面白いことにこれら全てが、より濃い色に着色していくための条件となっています。

つまりマルベックの遺伝的な特性に加え、最も美味しく育つ条件(十分な日光、大きな温度差、乾燥気候)のすべてが、結果として果皮を濃い紫~黒色に変えています。これは、マルベックという品種の個性が環境との相互作用で最大限に引き出された結果と言えそうです。

2. そもそもタンニンってなんだっけ?

私の好きなアニメ「名探偵コナン」に出てきたり、紅茶やワインに含まれている物質という認識で止まっていましたが、もう少し掘り下げてみましょう。

「タンニン」は植物に含まれる渋み成分です。特に葉、樹皮、まだ食べ頃でない果実に多く含まれています。これは植物が、身を守るための防御物質として進化してきたものなんです。

具体的な防御機能としては、
・渋みや苦みで昆虫や動物が食べるのを防ぐ
・タンパク質と結合して、動物が植物から栄養を吸収するのを防ぐ
・強い紫外線から植物を守る

などが挙げられます。

またタンニンという名前は「革をなめす」という意味の英語"tan"に由来しています。昔から、革をなめす(原料の皮から不要なたんぱく質を除去する)際に使われてきた成分だったからです。

赤ワインの場合は、ブドウの果皮と種子に含まれていて、渋みの源となっています。



他にも、
・緑茶、紅茶、烏龍茶などの「チャノキ」から作られるお茶
・コーヒー
・柿
などに多く含まれ、特徴的な渋みの正体となっています。

1番で紹介した「アントシアニン」とタンニン。この2つの成分がマルベックの個性的な味わいと色合いを生み出しているといえそうです。

3. 実が小粒で果皮が厚いとなぜタンニンが豊富で、濃い色合いのワインになるの?

1、2を踏まえて今回の最大の謎に迫るその前に、「なぜマルベックは小粒で果皮が厚いのか」その理由を見てみましょう。

それぞれ1番同様、①遺伝的な特性、②環境への適応が関係しているようです。

小粒であることは、親品種の特性を受け継いでおり、乾燥気候や高地での生存に有利です。厚い果皮は強い日差しや乾燥から果実を守り、病害虫への抵抗力を高めます。

ではなぜ小粒で果皮が厚いことが、タンニンの豊富さと濃い色合いのワインに繋がるのか?

わからなかったので、AIに例えを考えてもらいました。
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同じ量の茶葉(5g)を使って:
・大きい急須(500ml)でお茶を入れる
・小さい急須(200ml)でお茶を入れる

この場合:
・茶葉(=葡萄の皮)の量は同じ
・お湯(=葡萄の果汁)の量が違う

小さい急須の方が濃いお茶になりますよね?

マルベックも同じことが起きています:

・一般的な大粒品種:果汁90mlに対して果皮10g
・小粒のマルベック:果汁80mlに対して果皮20g

つまり、マルベックは「小さい急須でお茶を入れている」ような状態です。
===

確かに小さい急須の方が、色が濃いお茶が入ってそう!と腑に落ちました。

1番目の疑問のところで解説した通りマルベックの果皮には、赤紫色の色素であるアントシアニンが含まれています。少ない果汁に対して多くの色素が溶け出すので、濃い色合いになるのです。

またアントシアニンとタンニンは果皮に一緒に存在し、その含有量には相関関係があります。
つまり、アントシアニンが多いブドウは、通常タンニンも多く含んでいるのです。

タンニンは直接的に黒色を生み出すわけではありませんが、アントシアニンと結合して色を安定させ、より深みのある色合いを作り出します。

つまり、小粒で厚い果皮というマルベックの特徴が、アントシアニンとタンニンを凝縮させ、さらにこの二つの成分が相互に作用することで、結果として濃い色合いで、渋みの強い(タンニン由来)ワインを生み出すのです。

それでは、アルゼンチン産のマルベックワインを飲んだレポートを書きます!...と言いたかったのですが、あいにくワインを手に入れられませんでした。

代わりに、代わりにまずはマルベックの原点、フランス・カオール地方のワインから味わってみることにしました🍷これまで解き明かしてきた「黒々とした色」「タンニン」「果皮の特徴」を実際に確かめながら、味わってみたいと思います。

アルゼンチンワインとの味わいの比較は、次回のお楽しみに!

■今週のテイスティングレポート
リガール カオール レ テラス 2020 | メゾン・リーガル



今回テイスティングしたのは、メゾン・リーガルというワイナリーのワイン。1755年にマルベックの発祥の地であるカオール地方に設立された歴史あるワイナリーです。カオールに250ヘクタール(東京ドーム約53個分!)以上のブドウ畑を保有し、マルベックについての独自の専門知識を築き上げてきました。現在は南西フランスの様々な生産者やパートナーワイナリーと協力して幅広いワインを手がけています。

このワインのラベルには、カオール地方の代表的な地形である段々畑(テラス)が描かれています。カオール地方を流れるロット川(フランス南西部の大きな川)が、長い年月をかけて削り出した渓谷に沿って、石灰岩質の斜面と段々畑が広がる風景を表現したものです。

先ほど学んだマルベックの特徴がどのように表現されているでしょうか🍷グラスに注いだ瞬間、思ったこと。「本当に黒い!」ここまで長々と黒さの理由を考えてきただけに、実際に目にすると感動的でした。

・外観:深みがあって、艶がある。黒みを帯びていて、濃い色のアメリカンチェリーが凝縮したような色合い。テクスチャは軽やか。

・香り:しっかり嗅ぎに行くことで感じるほど控えめ。ブラックベリーのような香りのほかに、黒胡椒、山椒のようなスパイシーさを感じた。酸味の強いコーヒーのような感覚も。
→一晩冷蔵庫に入れて、朝香りを嗅ぐと昨晩感じなかったトースト香をしっかり感じました🍞一体何があったのか、好奇心が疼きますが次回以降のテーマとします!

・味わい:やや軽い、なめらかでまろやか。舌の両端がきゅっとするような渋みと酸味を感じる。舌奥には渋みと苦みがしっかり残って、ちょっと渋めのベリーを食べた後のような感じ。アルコール感もあるけれど、飲み口が重たくないのでスルスル飲めました。
→昨晩より、酸味をより感じました。冷やすことでよりサラリと飲みやすく感じました。

・価格:1,628円(税込)/750ml

購入したお店は今回は近所のイオンにて。次回からは酒販店さまを巡る旅を再開します!2024年は大変お世話になりました。2025年も引き続きよろしくお願いします。

 

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